“労働者”不在の議論

公明党太田明宏代表が慎重な姿勢を示していることもあって、俄かに雲行きが怪しくなってきた「ホワイトカラー・エグゼンプション」。


今日の日経新聞には次のような記事が掲載されており、

厚生労働省は与党内から導入に異論が出ている、一定条件を満たす会社員を労働時間規制から外す「日本版ホワイトカラー・エグゼンプション」制度について、企業に社員の健康管理確保措置を義務付けることを前面に出し理解を得たい考えだ。与党や労働界の「賃金を抑制し長時間労働を正当化する」との批判に応え、一月開会の通常国会での労働基準法改正案の提出を目指す方針だ。」(日経新聞2007年1月6日付朝刊・第5面)

具体的には、

(1)「週休2日以上の休日を確保する」、「月80時間以上の長時間残業をした社員には医師の面接指導の機会を提供する」、といった企業側の義務を労基法改正案に明記。
(2)休日確保に違反した企業に対しては「6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金」以上の罰則を科す。

といったものが「健康管理確保措置」として挙げられている。


このような“歯止め策”が講じられることは、かなり前から予定されていたし、法案成立の雲行きが怪しくなってきたから出てきたアイデアというわけでは決してないので*1、何をいまさら、といった感のある報道なのだが、こういうところをあらためてアピールしないとどうにもならない状況になりつつあるのだとしたら事態は深刻だといえる。


いかに制度上「健康管理確保措置」を義務づけたとしても、当の労働者自身が自覚をもってそれを活用しない限りは無意味なものに終わるだろうし*2、杓子定規な「健康管理確保」義務を企業側に課すことは、かえって働く側の手足を縛ることにもなりかねないと自分は思うのであるが*3、こういったところで抵抗の「成果」をアピールしたい人も少なからずいることだろうから、本来「いかに労働者に自由な裁量を与えるか」という見地から展開されるべき議論が、全く違う次元の議論に置き換えられてしまう可能性があるのは否めない。


筆者としては、これからの議論が「医師の面接指導を行うための残業時間数」の調整だとか、刑事罰の懲役を何年にするか、といった些細な部分での不毛な議論に収束しないよう、ただただ願うのみなのであるが・・・。

*1:それゆえ世間で言われているほど、使用者の側にとって使い勝手の良い制度ではない、ということも初めから分かっているのであるが。

*2:体調が悪いと自分で自覚していて、休みたいと思っているのに、産業医や上司・同僚にその意思が伝えられないタイプの人は、どんなに立派な制度を設けたとしても過労死のリスクから逃れることはできないだろう。このことはホワイトカラーエグゼンプションが導入されようがされまいが何ら変わるものではない。自分を守れるのは自分だけだ。会社でもなければ組合でもなく、ましてや国でも政治家でもないのは明らかだ。

*3:義務を果たそうと思えば、企業の側としては当然に個々の労働者の働き方にまで介入せざるを得なくなるわけで、“自由”になったはずの労働時間の使い方にも結局は一定のタガがはめられることになってしまう。

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