「品格ある」企業法務

年の初めのNBLには、法務部門に属する者としていろいろと考えさせられる記事が載ることが多く、毎年愉しみにしている。


今年も、『新春座談会・「立ち位置」を考えた「品格ある企業法務」』というタイトルで、企業の法務系統部署に属する方々がそれぞれの思いをぶちまけられており、筆者としてもいろいろと感じ入るところが多かったので、この場でご紹介することにしたい*1


本座談会は、「多様な事件・事故に通有する要素と背景事情をえぐりながら、それらをひもとくことで企業法務担当者のマインドがどのように形成されてきているのか、どうあるべきかについて論ぜよ」*2というテーマで設定されているものであるが、筆者自身が最も共感をもって受け止めたのは、永田義博氏(株式会社ディーシーカード業務室長兼コンプライアンス室長)の発言。


例えば、

「私たちのところには、時折「裁判沙汰にするぞ」とか「出るとこ出るぞ」とかいう人がやってくる。私は「どうぞ、どうぞ」と喜んで対応しなさいと言っています。裁判は、国が税金で物事を解決してくれるのだから、こんなにありがたいことはありません。彼らの期待と逆方向の反応を示すと彼らの腰がくだけます」(前掲13頁)

なんて話は、法務を経験した人間なら非常に良く分かる話だし*3、そういうマインドにはなれない人でも、変に隠そうとしたり、下手に出るより、自分が信じた筋にとって淡々と争う方がより穏当な結果につながる、ということを経験則上感じている人は多いのではないかと思う。


また、

「人がやりたがらない仕事は、みんな法務担当に持ちこまれて他人に取られることはないので、失業もしにくい(大笑)」
「人は、いやがる仕事をわれわれ法務の人間がやってくれていると思っているから、すまして受けるけれども、やる間は楽しませてもらう」
(前掲20頁)

なんてくだりを聞くと、皆同じなんだなぁ、と思ったり・・・。


一方、“弱小法務部の悲哀”的な香りを漂わせているのは、加藤ひとみ氏(高砂香料工業株式会社特許・法務部長)で、これまた共感できるところは多い。

「誤解を恐れずに言うと、会社全体がグラっとするような事件が起これば、ただし、会社が潰れない程度のものですが、その収拾過程で、岩倉さんがおっしゃるような適正な判断ができる適任者が見つかるか、育つだろうと思います」(前掲15頁)

という話が出てくるのは、要は社内の「アンテナが高くない」ことの裏返しで、自分自身多かれ少なかれ常日頃念じてることだし、

「自分がやっていることの重要性が理解されずそれに対する評価のズレに悩む方が多いのではないかと思います。企業法務担当者というものは、そもそも融通が利きすぎてもよくないし、逆にあまり利かなくても社内でのユーザーをなくして、「孤高の人」になってしまう。そうなると資源の無駄遣いにほかならないというわけで、企業法務担当者が意識をどのように持つかは悩ましい問題です」(前掲15頁)

というあたりは、身につまされる思いで聞くほかはない。

「法務担当者のマインドなど顧みず、現実社会の動きは次々と変貌を遂げていきます。・・・(略)・・・。今の状況は法務の人間にとって大きなチャンスだと思います。しかし、契約書だけを見ていた奥の世界から、陽の当たる表の世界に活躍の場を移したときには、従来そこにいたグループが戸惑いを感じることは必至です」(前掲15頁)

といった後に、内部統制をめぐる経理部門との“綱引き”の事例*4が紹介されているあたりなんぞ、まさに“今そこにある危機”で(笑)、“ウチの会社の方ですか?”と思わず突っ込みたくなったりもする*5


また、NBL誌上でコンプライアンスに関する連載を書かれていた岩倉秀雄氏(日本ミルクコミュニティ株式会社コンプライアンス部長)が、教科書どおりの堅実な“模範解答”を述べられている横で、橋本明浩氏(東急リバブル株式会社お客様相談室長)が言った以下のセリフには、溜飲を下げる思いである。

「最近の報道を見ていると、企業だって人の集まりだからミスをすることもあるものなのに、「一罰百戒」などという言葉がでるくらいに無謬性の議論が当たり前のように言われています」
「ゆとりの時代などといいながら、このような風潮は、ゆとりのない社会を牽引してしまっているのではないでしょうか」(以上、18-19頁)

良くぞ言った!(笑)。


無謬には程遠いメディアだの“一般市民”だのが、企業のちょっとしたミスにさぞかし鬼の首でもとったかのように絡みまくる姿に、正直病的なおぞましさすら感じている今日この頃であるが、世論に追従した“きれいごと”だけではなく*6、法の精神に照らして“叩きすぎ”と思われるような部分ははっきりとそう指摘するのも、法務部門から世に意見を発信する上では忘れてはならないことだと思うのである。


なお、日頃からドタバタとドブ板仕事に持ち込む傾向が強い筆者としては、永田氏の以下の発言を自らへの戒めかつ目標として、わが身を律したいと考えている次第。

「私は、法務部門は綺麗な解決ができなくてはならないと思っています。ドタバタと格好悪く解決するのは法務マンのやることではない。そうではなく、人が「たいへんだ」というところを、何の苦労も見せずに事案の本質を見抜いて「さらっと」解決できるよう、日頃から鍛えておくのです。」(前掲17頁)

「品格」と「法務」は、時に二律背反する単語になってしまいがちなのだが(苦笑)、ここはじっくりと仕事のやり方を見直すべきときなのかもしれない・・・*7

*1:岩倉秀雄=永田義博=橋本明浩=加藤ひとみ(司会)・NBL848号10頁。

*2:前掲11頁〔加藤発言〕

*3:法務なんていうのは、世間的な信用をやたら気にする一部金融業界を除けば、基本的に“裁判沙汰”が大好きな人種の集まりといっても過言ではない。最初は嫌いでもじき慣れる(笑)。

*4:前掲15-16頁。

*5:本稿でも指摘されているとおり、実際には経理部門が行うべき「内部統制」と、法務部門で行うべき「内部統制」はかなりの部分別物なので、仕事の取り合い、というよりは“看板の取り合い”といったほうが適切かもしれない。

*6:当事者になった企業の場合、これをいわなければおさまりが付かないのも事実なので、やむを得ないところではあるのだが。

*7:最もそんな時間は早々与えてもらえるものではないのだが。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html