貧すれば鈍する

グダグダな著作権侵害事件を2件ほど。

東京地判平成19年2月28日(H16(ロ)第27086号)*1

1件目は小中学生を対象とした学力テスト問題をめぐる事件。


原告は教育図書の出版等を業とする育伸社*2
被告は、「ING進学教室」を経営する学光社*3という会社。


一見ガチンコっぽい対決であるが、実のところ被告がやったことといえば、原告が作成した月例テストを無断で複製して生徒に解かせた、というベタベタな著作権侵害


本件に面白さを見いだすとすれば、「使用許諾の有無」という一点をめぐる攻防で、被告側が、元々被告代表者と親しかった「原告従業員甲」が、被告代表者に対して複製を許諾した、と主張したのに対し、原告側は、「甲は被告代表者との間に個人的な親交はな」く、単に営業の一環としてサンプルを提供したに過ぎない、と真っ向から否定したくだりなどは、なかなかの泥仕合風味で素敵な仕上がりになっているのだが、結局裁判所は、甲と被告代表者が親しく接していたことは認めたものの、

①無償で月例テストの複製許諾をするというのは、原告の販売政策上必ずしも合理的なこととはいえないこと
②原告と被告の取引がさほど大きなものでなかったことを勘案すると、許諾に係る文書等を作成していないのは不自然であること

などから、被告側の反論をあっさりと退けている。


少子化で、そうでなくとも競争の激しい塾業界のこと、おそらくは、テスト問題のネタ切れに困った被告側が“無断複製”という禁断の果実に手を出した、ということなのだろうが、丸々10年にわたり計20,000回にわたる複製を繰り返した、というのは、やはり尋常ではない。


そしてその結果、被告は計841万0486円もの損害賠償義務を負うことになってしまったのだから、授業料としては随分高くついてしまったものだと思う。


なお、原告は、被告が原告のテスト処理結果まで無断利用した、として、用紙代のみならず処理代についても賠償金算定の基礎に入れるよう主張していたのだが*4、その点については、退けられた。

知財高判平成19年2月28日(H18(ネ)第10090号)*5

2件目は、以前本ブログでも取り上げた、株式会社東京リーガルマインド(LEC)を被告とする著作権侵害事件である*6


原審では、直接の侵害者である被告・経営戦略研究所株式会社に加えて、教材の発行者である東京リーガルマインドにも「過失」あり、とされ、損害賠償責任を負わせた点が注目されたのであるが、知財高裁に控訴したのはその被告側ではなく、僅か17万円という賠償額に不満を持った(であろう)原告側であることから、上記の争点については何ら真新しい判断は示されていない。


知財高裁が判断を示したのは、控訴人側の「損害額の算定」に関する主張について、であった。


裁判所は、

①本件テキストがLECの講座を受講しなければ入手できないものとして、少部数限定で印刷されるものであるから、その対価は講義料収入を基礎として算定されるべき
②控訴人が執筆した原稿を、被控訴人が事情を秘匿したまま無断流用して公表しており、その事実が露見した後にも交渉を拒否するなど侵害態様が悪質であること

を強調した控訴人の主張に対し、

「原告著作物の著作権侵害行為について著作権法114条3項に基づき損害額を算定するに当たって、本件業務委託契約上のテキスト作成料の規定を形式的に適用することは相当ではなく、上記講座の委託につき支払われる報酬総額や本件テキストの利用方法の特殊性等の各事情を総合考慮して、上記損害額については30万円と認めるのが相当である」(5頁)

「被控訴人らの行為により、原告著作物の内容について、これを交付するに際して被控訴人Y1から受けていた説明の趣旨に反して、控訴人の意図に反する形態で、これを掲載した刊行物に先立って公表がされた点は十分考慮すべきものである」(6頁)

と一定の理解を示し*7著作権著作者人格権侵害に基づく損害賠償額として、50万円を認容したのである(これは実に原審の3倍の額だ(笑))。


LECに過失を認めるかどうかはともかく、被告側全体としてみれば、違法複製であることが明白な事案だけに、紛争としてはイマイチ面白みに欠けることは否めないが、たとえ本人訴訟でも、論理立てた主張を展開して一生懸命頑張れば少しは報われるものだ、ということを示した、という点では意義がある訴訟だったといえるのかもしれない。



以上、上記2件のグダグダ訴訟から得られる教訓は、いかに納期や予算がキツキツだったとしても、訴訟に行って侵害成否で争い得ないような恥ずかしい著作権侵害はするな、ということだろうか。


これを「対岸の火事」と笑ってばかりはいられない、切実な事情が筆者自身の足元にもあるのも事実なのであるが・・・。

*1:第29部・清水節裁判長。http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070301102155.pdf

*2:http://www.ikushin.co.jp/

*3:http://www.ing-school.co.jp/

*4:基本的に、原告が作成するテストにおいては、用紙代よりも処理代の方が高く設定されている。

*5:第3部・飯村敏明裁判長。http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070301114607.pdf

*6:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20061118/1163787077#tb

*7:もっとも、後者については、本件テキストの配布部数が少量であること、テキストの内容に他の参考文献の要約等が多いこと等の事情も同時に勘案されているのだが。

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