やぶへび判決

「モンスター・ケーブル」商標事件(差止請求権不存在確認請求事件)の控訴審判決が出されている(知財高判平成19年3月6日・H18(ネ)第10060号)*1


かつてのエントリー(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060605/1149443491#tb)で原審判決を取り上げた際には、

「ちなみに、本件で判決をもらえたのは国内販売代理店のイース社だけで、実質的に本製品の製造販売を行っているモンスター・ケーブルInc.については、訴え却下、という判断が下されている。本件の判決で「差止請求権の存在」が肯定されたことを考えると、それはむしろ原告にとってはラッキーだったともいえ、本判決が確定したとしても、まだまだ争いが続く余地は残っているように思われる」

とコメントしたのであるが、高裁は、控訴人モンスター・ケーブル社*2の訴えの利益について、

「控訴人イースは,控訴人モンスター・ケーブルの販売代理店として,控訴人標章が付された控訴人モンスター・ケーブルの製品を輸入,販売しているのであるから,控訴人標章が本件登録商標に類似しているとして,同標章を付した控訴人製品の販売が差し止められた場合には,控訴人イースが控訴人製品を販売することができなくなるのみならず,控訴人モンスター・ケーブルにとっても,自らが製造し,控訴人標章を付した控訴人製品の日本国内における販売が差し止められることになる。また,控訴人イースの販売する控訴人製品の販売が,本件登録商標を侵害するとして差し止められた場合,販売代理店契約の解除などの形で製造業者である控訴人モンスター・ケーブルの法律上の地位又は利益が影響を受ける可能性も高い。」
「そもそも,本件のように外国法人がその標章を付した製品を日本国内で販売する場合,自らの営業所やインターネットを通じて販売するか,販売代理店を通じて販売するかは,販売方法や経路の違いにすぎず,当該外国法人と第三者との間に商標権をめぐる紛争が生じたときに,当該外国企業がその製品を日本国内で直接販売している場合には商標権に基づく差止請求権不存在確認の利益を有するが,販売代理店を通じて販売する場合には同確認の利益がないと解することは,とりわけ,販売代理店が当該外国企業の意向に従って商標権に基づく差止請求権不存在確認訴訟の提起に踏み切るとは限らないことを考慮すれば,合理的な理由はないというべきである。」
「本件においては,控訴人モンスター・ケーブルが自らの標章を付して製造した控訴人製品の販売が本件登録商標と類似しているかどうかが主たる争点であり,この点について最も適切に争い得るのは,控訴人モンスター・ケーブルと被控訴人であることは明らかである。したがって,控訴人イースが本件訴訟の当事者であることを考慮してもなお,控訴人モンスター・ケーブルと被控訴人との間で,本件登録商標と控訴人標章が類似しているかどうかについて主張立証を尽くし,本件登録商標の侵害の存否を確定することが,本件紛争を解決する上で,必要かつ適切であるということができる。」
「以上によれば,本件では,控訴人モンスター・ケーブルと被控訴人との間において,判決をもって本件商標権の侵害の有無を確定することが,本件紛争を解決し,控訴人モンスター・ケーブルの法律上の地位ないし利益が害される危険を除去するために必要かつ適切であり,控訴人モンスター・ケーブルは,本件訴えにつき,訴えの利益を有するというべきである。」(太字筆者、11-12頁)

と述べ、原審の判断を変更した。


通常であれば、一応争点に対する判断が控訴人の主張どおりに変更された、ということで、控訴した甲斐があった、ということになるのだろうが、本件の最大の争点、「MONSTER GAME」(控訴人商標)と「MONSTER GATE」(被控訴人商標)の類否については、結局類似する、とした原審の判断を支持する形になっているので*3、結果としてかえって控訴人・モンスター・ケーブル社にとって不利益な判決となってしまったことは否めない*4


モンスター・ケーブル社の側にしてみれば、被控訴人側の追及が自らに及ばないとしても、販売代理店が差止めを食らってしまえば、日本での自社製品の販売ができなくなることに変わりはないし、そもそも、販売代理店に対して被控訴人側がちょっかいを出してくることへの不満が本件訴訟の提起につながっているようにも思われるから、たとえ負け戦になるとしても、自らを交渉窓口として事実上認めてもらえればそれでよかったのかもしれない*5


だが、パッと見ただけでは「やぶへび訴訟」の感が拭えない、というのはやはり事実であり、当該控訴人が外国法人であることとも合わせて、いろいろと勘ぐってしまいたくなる事件であるのは確かである。


この判決を受けて控訴人側がすんなりとライセンスに応じるのかどうか、筆者には知る由もないが、仮に攻守ところを変えて、本件被控訴人(コナミ)側から侵害訴訟を提起した場合、控訴審判決での判断がどのように利いてくるのか等*6、再び興味深い争いになるのは間違いないように思われる。

*1:第4部・塚原朋一裁判長・http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070307132957.pdf

*2:補足すると、本件で控訴人製品を日本国内で販売しているのは控訴人モンスター・ケーブルの販売代理店である控訴人イースであり、控訴人モンスター・ケーブルが日本国内で控訴人製品を直接販売しているわけではないので問題になっていた。

*3:理由付けについては、原審のものとほぼ同じである。筆者自身がこの判断に疑問を抱いているのは、前回のエントリーでも既に書いたとおりである。

*4:却下判決であれば判決の既判力は当該当事者には及ばないが、棄却判決となれば「差止請求権不存在確認請求が認められなかった」という結論が後続訴訟にも影響してくることになる。それゆえ裁判所も、「控訴人モンスター・ケーブルの請求を棄却することは同控訴人の不利益に原判決を変更することになる」(19頁)として、原判決変更ではなく、控訴棄却という結論をとっているのである。

*5:権利者の側としては、本丸から反撃されるよりも、出城レベルの戦いでやんわりと矛先を収める方が、リスクも少ない。

*6:形式上、本判決の主文は単なる「控訴棄却」であり、「当事者適格を有するモンスター・ケーブル社の差止請求権不存在確認請求が認められなかった」というのは理由中の判断に過ぎないのであるが、後続の侵害訴訟におけるモンスター・ケーブル社側の非侵害の主張は、信義則ないし争点効理論によって遮断される可能性が高いように思われる。