日経新聞のコラム「法務インサイド」に、法律事務所の大型化に伴う利益相反リスクを回避するために悪戦苦闘する、各事務所の苦労の様子が描かれている(2007年3月19日付け朝刊)。
四大クラスの巨大事務所になれば、同じ事務所に所属していても日頃滅多に顔を合わさない、なんてことはよくある話と聞くから、中でファイアーウォール(チャイニーズウォール)*1さえしっかり立てておけばよいのではないか、と思ったりもするのであるが、やはり実際に大きな争いごとになればそうもいかないのだろう。
実際に利益相反状況が生じたとき、法務弱小企業で日頃から大して業界にお金を落としていない筆者のような会社は、真っ先に「敵前逃亡」される可能性が高いわけで、それゆえ日頃から組織的に事務所をあれこれと開拓しておかねばならないはずなのだが、どうもうまく行っていない。
うちに限らず、日本の保守的な風土で育った経営者の皆さんは、一度うまく行くと、「ピッチャー鹿取」(笑)*2的なチョイスをする傾向にあるし、法務民族は概して出不精だから、部門のトップが直々に取引先の開拓をする、なんて風土もあまりないから、そうなってしまうのだと思う。
筆者自身は非常に危機感を抱いているのであるが、さすがに日々追われる企画立案と雑務に加えて、渉外まで一人でフルにやるのは物理的に不可能。細々と地道な活動はしているつもりだが、いざというときに役立つかどうかは未知数である。
結局、会社が揺らぐような事件がドカンと降って来て、“煮え湯を飲まされる”ような経験をしなければ組織の体質なんて変わらないのだろう、といって自らを慰める今日この頃、でも、そんな“危機”を期待してしまうのも何か間違っているような気がしてまた落ち込む・・・。
というわけで、いろいろと興味深い日経の上記コラムであるが、個人的には、以下のくだりが興味を惹いた。
「4月、200人以上の弁護士を抱える森・浜田松本法律事務所(東京・千代田)から、8人が末吉綜合法律事務所(東京・港)として独立する。「もう一度、ベンチャー企業のような動きをしたい」と話す末吉亙氏。利益相反の回避も一つの狙いだ。」(2007年3月19日付朝刊・第16面)
何と何と・・・(笑)。
マックスと合併して知財部門を強化したはずのMHMから末吉弁護士が独立されるとは何とも皮肉な話であるが、いろいろと“お家の事情”というものもあるのだろう。
「法律事務所巨大化」というニュースが大々的に報道されるようになるにつれ、若い人々の大手志向も加速の一途を見せているようであるが、この業界が、職務の性質上、構造的に離合集散を繰り返す運命にある業界だ、ということは気に留めておいたほうが良いのかもしれない。
*1:親切な読者の方より、一般的には「ファイアーウォール」ではなく「チャイニーズウォール」と呼ぶのではないか、というご指摘をいただいた。筆者自身は両者の定義の違いを正確に理解しているとは到底言えないのだが、業界の実情を知る方(?)からの貴重なご指摘として、ここに記しておきたい。なお、「金融機関のグループ化に関する法律問題研究会」報告書(http://www.imes.boj.or.jp/japanese/kinyu/2005/kk24-h-1.pdf)注470も合わせて参照のこと。防火壁にしても万里の長城にしても、元々は金融業界の用語であって、そもそも法律事務所の利益相反の文脈で使うこと自体失当なのかもしれないが、そこは物の喩えとして、大目に見ていただければ幸いである。
*2:今の学生さんの世代にゃ、このネタ分からんだろうなぁ・・・(苦笑)