「不払い」と「支払拒否」の違い

今、生命保険各社の保険金、給付金の不払いが問題になっている。


金融庁の命令に基づく調査結果によると、全38社で計12万4000件、約263億円の不払いがあり、さらに膨らむ見通しということだ。


正直、職場にまで押しかけてくる生保の営業職員のしつこさには、いつも辟易しているのだが、もし、生保各社がそれと同じくらいの“情熱(笑)”をもって支払業務にあたっていれば、おそらくこんなことにはならなかっただろうから、彼らが“利用者軽視”のそしりを受けることは免れないだろうと思う。


もっとも、日経新聞の解説記事にもあるとおり、今回問題にされているのは、あくまで「契約者に請求を促す案内を怠っていたという売り手としての不作為の罪」(2007年4月14日付・第3面)に過ぎないのであって、少し前に問題になっていた「不当に支払を拒む」ケースとは事例を大きく異にする。


契約上、保険金の支払は、あくまで契約者側のアクションによって行われるものになっているのだから、「請求があったにもかかわらず、事務作業ミスによって支払が行われなかった」場合はともかく、「保険契約者自身が請求を怠ったがゆえに支払われなかった」場合であれば、「不払い」による不利益を一義的に甘受すべきは契約者の側となる、というのが本来の筋であろう*1


もちろん、善良な保険契約者の多くは、営業職員の甘言に乗せられて言われるがままに特約を付けてしまったり、職場や親戚の“お付き合い”で適当に加入しているのであって、自身の契約に対する正確な知識を持っている人など稀だろうから、その辺りの当事者間の情報格差を考慮した契約上の付随義務として、保険会社側が支払時にも一定の説明義務を負う、という法律構成を立てることは可能だろう*2


だが、こういった「不払い」をあまりに叩きすぎると、より強い制裁を加えるべき悪質な「支払拒否」事例との区別が曖昧になってしまうし、有効に活用すれば保険者にとって利益をもたらすはずの「特約」のメリットが損なわれてしまうことにもなりかねない*3


そして、何より「悪いのは保険会社」というムードが蔓延することで、「保険会社に任せておけば大丈夫」という保険契約者側の「甘え」がより一層助長されることになれば、“消費者啓発”の観点からもマイナスだと思うのである。



なお、筆者は、元々貧乏性な上に、面倒な手続がキライなので、一応は保険料を毎月支払えるくらいの資力を備えるようになってきた今でも、生命保険なるものには一切加入していない。


いくらせっせと保険金を納めても、支払を受けられるかどうかは「偶然」に左右されるというのが保険制度の本質である以上、保険に加入するというのは、毎月宝くじを買い続けるようなもので、「何となく保険をかけていないと安心できない」というマインドの持ち主でもない限り、生命保険に入る意味など大してない、と考えている*4


まぁ、ここまで言い切るのは極端だとしても、今回多くの「不払い」事象の原因となった(裏返せば多くの保険契約者が請求する必要に迫られていなかった)「特約」については、不要と言い切って良いように思われ、今回の調査を通じてそれが明るみになってしまったことが、保険会社にとって一番の痛手だったのではないだろうか、と思ったりもするのであるが・・・。

*1:記事によると、通院特約や三大疾病特約などの「不払い」の多くは、契約者自身が「支払請求を忘れていたこと」に原因があるという。

*2:もっとも、税金の還付の際に、「もっと還ってきますよ」という親切な説明をしてくれる税務署職員などそうはいない、ということの対比で考えると、保険会社側にどこまで説明義務を負わせるか、については議論の余地もあろう。

*3:例えば、複雑さを回避するために「特約」を保険契約本体に取り込み、その代わりに支払金額を下げる、といった制度設計がなされる可能性が出てくる。

*4:自動車保険等、「偶然」といってもよりリスクが高い事象を対象とする場合には、話は別であるが。

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