アマチュアリズムの行く末

これ以上大きな騒ぎにするなかれ・・・という願い空しく、全国的規模で炎上しているアマチュア野球界の“裏金騒動”。


元々はプロ側からの資金供与が問題にされていたはずなのに、高野連側は、学校が行っている「スポーツ特待制度」にまで、“メス”を入れてしまった。


以前、本ブログ(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20070316/1174154244#tb)でも取り上げた日本学生野球憲章を再掲してみると、

十三条 選手又は部員は、いかなる名義によるものであっても、他から選手又は部員であることを理由として支給され又は貸与されるものと認められる学費、生活費その他の金品を受けることができない。但し、日本学生野球協会審査室は、本憲章の趣旨に背馳しない限り、日本オリンピック委員会から支給され又は貸与されるものにつき、これを承認することができる。
2.選手又は部員は、いかなる名義によるものであつても、職業野球団その他のものから、これらとの入団、雇傭その他の契約により、又はその締結を条件として契約金、若しくはこれに準ずるものの前渡し、その他の金品の支給、若しくは貸与を受け、又はその他の利益を受けることができない。
http://www.student-baseball.or.jp/kenshou/kenshou.html参照

ということで、確かに上記の文言だけ見れば、野球部員に対する「奨学金」の類は全て引っかかってくる*1


その結果、出るわ出るわ・・・で3日時点、違反申告のあった学校は実に376校*2。登録校の約4割強、実に7000人以上の選手が対象となってしまう悲劇がまたここに生まれたのである。

「特待制度の実施校は、奨学金等の解約同意書を高野連に5月末までに提出し、野球部長は退任しなければならない。チームは対外試合禁止にはならないが制度を利用していた選手は5月末まで対外試合出場禁止になる。」(日経新聞2007年5月3日付朝刊・第3面)

とのこと。


既に日本私立中学高等学校連合会が要望書で表明しているように、「なぜ野球だけがダメなのか?」という素朴な疑問は当然あるし*3高校野球界を仕切っている団体であれば当然知っていなければならなかった実態を今頃になって掘り返し、学校に責任を押し付ける、いつもながらの連盟の体質にも非難されるべきところは多々あるだろう。


いい意味で、スポーツの世界でプロとアマの垣根が取り払われつつある現代において、ブランデージ会長時代のオリンピックを想像させるような反動思想の持ち主である頭の固い御仁達を批判する言葉を挙げていけばキリがなくなる。


だが、既に賽は投げられてしまった・・・。



ここ数年の甲子園優勝校を含む、376校の錚々たる顔ぶれを見ていると、いっそのことこれらの学校が高野連を脱退して全国規模のリーグ戦でも展開したら、「甲子園」を超える新たな舞台が出来上がるのではないか、とさえ思えてしまうのだが*4、純粋な野球の競技会としてのレベルの高低はともかく、興行的にも「甲子園」を超えられるか、となると疑問も多い*5


いかに“超高校級”の選手達が競演するといっても、プロから見れば技術はまだまだ未熟なわけで、リーグ戦だろうがトーナメント戦だろうが、そんな選手達の試合にわざわざ金を払って観にいく人たちがどれほどいるか(あるいは全試合テレビ中継しようと考えるメディアが果たして出てくるか)、というのはよくよく考えなければならない。


今、「甲子園」があれだけの観衆を集め、全試合テレビ放映されるコンテンツとして存在しえるのは、地方予選という“底辺”で「近所のアンチャンが集まっただけの寄せ集め素人集団」が「スターの卵」達と同じグラウンドであいまみえることもありうる、というオープンなシステム(それは何百分かの一の確率で時に“番狂わせ”を生んだりもする)が、人々の素朴な感動を呼び覚まし、潜在的な“郷土愛”に訴えかけるからであって*6、単に「巧い高校生」が集まってガチンコ勝負を展開するだけで、同じような盛り上がりを見せることを期待するのは、いささか酷に過ぎるというべきだろう。


それゆえ、どんなに理不尽な仕打ちを受けようが、野球部を持つことによって何らかの“見返り”を期待する学校は、高野連の指示に粛々と従ってご沙汰を待つほかない、というのが実態ではないかと思われる。



今回の“大粛清”で、高野連が目論んでいるような“正常化”が確実に実行されたとして、その先、高校野球界がどのように変わっていくのか、今の段階では全く予測が付かない。


地元の公立高校に優秀な選手が集まるようになって、少なくとも各地区内では“戦力均衡化”が図られ、より高校野球が盛り上がりを見せるようになる*7というシナリオもありうるが、その一方で、運動神経がよくかつ親孝行な小中学生が、こぞって野球以外のスポーツに流れていく、ということも考えられるだろう*8


だが、ただひとつ言えることは、「今年の夏はいつもとは違う夏になる」ということくらいだろうか。


春の地区大会出場を辞退した学校に変わって浮上した古豪・新鋭校の生徒*9、特待選手に代わって試合に出られるようになった“万年補欠”選手、そして、対外試合出場停止という“束の間の休養”をバネに奮起した特待選手たち・・・


「雨降って地固まる」の喩えではないが、今は、巻き込まれた全ての利害関係者にとって、今回の騒動がある種の「糧」となることを願ってやまない。

*1:もっとも、字句どおりに読むと「支給又は貸与される」のではなく、「免除」される場合は第13条に抵触しないようにも思えるのだが、今般の報道から察すると、「免除」も含めて対象とする、という何らかの仕切りがあるのだろうと思われる。

*2:http://www.jhbf.or.jp/topics/info/000035.html

*3:日経の報道によれば高体連の梅村和伸専務理事も「特待制度の全面否定はしない」という立場を表明されているようである。

*4:実際同じようなコメントは、ブログ界でもあちこちで見られる。

*5:現にサッカーの世界では、各Jクラブのユースチームと各地区の競合校がリーグ戦形式で対戦する「プリンスリーグ」が行われているが、興行的に成功しているという話はあまり聞いたことがなく、あくまで試合経験を積ませて次世代の才能を育てる場、という位置づけで理解されるべきものだと思われる。

*6:もちろん、第二次大戦以前から積み重ねられてきた大会自体の歴史と伝統に依る所も大きい。

*7:もっともその代償として、地域格差は再び拡大していくことになるだろうが・・・。

*8:概してこの種の話は、よい意味でも悪い意味でも、サイコロを投げた人間の思惑とは違う方向へ進んでいきがちだ。

*9:大体どの都道府県でも、春の大会の成績でトーナメントのシード校も決まってくるから、今年の夏の地区予選は、強豪校同士が序盤で潰しあって、終わってみれば意外な顔ぶれが甲子園に出そろう、ということも十分に考えられる。

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