さりげなく大胆に・・・

ここまでやるか、と一部では不評らしい「ELLEGARDEN」事件。


フランス国の舌噛みそうな名前の原告にしてみれば、「極東の野蛮な国で、良く分からないロックバンドが俺達の「ELLE」使ってやがる、とっちめてやれ!」という気分だったのかもしれないし、ブランド価値を守るためにはこれくらいのことはしなければならない、ということで、あまり言っても仕方ないのだが、まぁ、アーティスト側にとってはとんだトバッチリなのは間違いない。


で、一見色モノのように見えて、実は「商標的使用」該当性判断(さらに不競法2条1項1号、2号の「商品等表示」性判断)に関しては、格好の素材ともいうべき判示が散りばめられているこの判決。実務的にも非常に有意義なものといえる。


第40部特有の「整理されていない読みにくさ」が随所にあふれているのに加え、最後の方に行けば行くほど“やっつけ仕事感”があふれているため、丁寧に読むのが難しい判決なのだが、以下、少し中身を追ってみていきたい。

東京地判平成19年5月16日(H18(ワ)第4029号)*1


裁判所は冒頭で、Tシャツ等、「ELLE」商標の侵害が問題になっている物品一つひとつについて、「ELLEGARDEN」の表示が商標的使用に該当するかどうか、を判断しているのだが、判断傾向を大まかに整理すると、大体次のようなことが言える。

「BRING YOUR BOARD!! TOUR2003」といったロックバンドのツアー記念Tシャツであることを示す表示と一体で使用されていれば、「ELLEGARDEN」とそれらの表示との「記述的なつながり」を認めることができ、商標的使用には該当しない」

残念ながら裁判例には実際のロゴの使用態様が表示されていないため、「商標的使用」と認められたものとの比較を厳密に行うことはできないのだが、とにかく「TOUR」という表記が一緒に入っていれば(それが「ELLEGARDEN」ロゴと違う面にあったとしても)、記述的表示、として処理しているのは確かであるように思われる。


そして、これにより、Tシャツを中心に、いくつかの使用態様が商標的使用に該当しない、とされているのである。


一方で、「TOUR」抜きのライブツアー名+「ELLEGARDEN」という表示をした場合には、「記述的なつながりを認めることはできない」として、「商標的使用」を肯定しているから、このあたりのさじ加減は何とも微妙、といわざるを得ないのだが、判断が難しいデザイン的な商標使用に関し、一つの判断基準を示した、という点においては一定の意味があるように思う。


続いて、「商標の類似性」について。


ここで面白かったのは、「ELLEGARDEN」という10文字の欧文字を「我が国における英語教育の水準」から、「ELLE」と「GARDEN」の2単語から成るもの、と分析した後に、

「我が国におけるドイツ語教育の水準からすると、同需要者により、「ELLE」がドイツ語において長さの単位を意味する単語であると理解することはないと認められる」(53-54頁)

としたくだりだろうか。述べられていることはごくごく自然な中身なのだが、「教育水準」という表現が持ち出しているところが・・・w


結論として、「「GARDEN」の部分の出所表示は弱く、被告標章の要部は「ELLE」の部分である」と認定したことで、商標の類似性は肯定されることになった*2


さて、本件では、問題となった商品が専らツアーグッズとして販売されていたものだったため、「需要者」の範囲も問題とされたのであるが、裁判所は、

「被告ウェブサイトが、原告の正規のウェブサイトや原告の商品を扱うウェブサイトと並列的に表示されること、その結果、原告の商品を探している消費者であっても、被告ウェブサイトに容易に到達し得ることが認められる」(56頁)

として、需要者層が共通する(一般消費者)と認めている。


そして、注目すべきはこの先である。

「仮に購入者自身は、被告ウェブサイト中の説明内容により、被告商品を本件ロックバンドに関連するものであるということを認識できたとしても、当該商品を身に付けた者を更に他の第三者が見ることも当然あり得るところであり、そのような第三者は、当該商品が本件ロックバンドに関連するものであるとの認識を有することができず、当該商品の出所が原告であると誤認するおそれがあると認められる(57頁)

いわゆる「ポスト・セールス・コンフュージョン概念により誤認のおそれを認めたのである。


もしかすると、単にウェブサイト上から買えるから、という理由だけでは薄いと思ったのかもしれないが、いろいろと議論のある概念を、これだけさらっと書いてしまっているあたり、筆者としては裁判所の大胆さに感服せざるを得ない(苦笑)*3



なお、裁判所は商標権に基づく請求が認められなかったものについて、不競法2条1項1号、2号該当性も判断しているのだが、商標権侵害判断の対象とならなかったCDのジャケットデザインを除いて*4、結局、全て最終的に不競法違反の成立を否定している。


結論としては妥当だと思うのだが、個人的には、なぜ「商品等表示」にあたらないのか、といった点について、もう少ししっかりとした理由付けがほしかったところ。


いずれにせよ、控訴審の裁判所には、もう少し見易い整理ときちんとした理由付記をお願いしたいところである。

*1:第40部・市川正巳裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070521130100.pdf

*2:ただし、「ELLE」の文字を「相当デザイン化」した2つの使用態様については類似性が否定されている。

*3:判決を見る限り、当事者の主張の中でもこの点の攻防はそんなに分厚いものではなかったようで、それゆえ原告にとっては“言った者勝ち”になった可能性もある。

*4:これは「ファッションと音楽とは、・・類似性のある分野であると認められる」という、ややもすると強引にも見える理由によって、2条1項1号該当性が肯定されている。

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