ダビング屋か、それとも貸金庫か。

昨日のうちにアップしようと思っていたのだが、力尽きて一日遅れになってしまった*1


お題は、ここ数日ネット界を揺るがせている、「MYUTA」事件*2である。

東京地判平成19年5月25日(H18(ワ)10166号)*3


簡単にまとめてしまえば、本件の争点は、

「原告が提供するサービスにおいて、音楽ファイルを複製しているのが個々のユーザーか、それともサービス提供者たる原告自身か」

ということになり、当事者の喩えを借りるなら、

「俺達のサービスは「貸金庫」と同じだ!」(原告の主張)

「いやいや、お前らのサービスは「ダビング屋のサービス」と同じだ!」(被告の主張)

という争い、と整理することができる。


原告も被告も、著作権に強い代理人を揃えたためか、それとも事案そのものの(法的観点から見たときの)単純さに由来するのか、本件における当事者の主張は、焦点が絞られていて非常に分かりやすいのだが、中でも上のような喩えは、いい得て妙、といったところだと思われる。


そこで、裁判所が、このような争いに対してどのような判断を下したのか、以下順に見ていくことにしたい。

複製権侵害の成否について

システムの詳細については、文字で説明するより、判決の別紙(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070528142238-1.pdf)をご覧いただくほうが早いと思うのだが、裁判所は、まず本システムの以下のような特徴に着目している。

(1)「本件サーバにおける複製は、音源データのパックアップなどとして、ファイルを単に保存すること自体に意味があるのではなく、原告の提供する本件サービスの手順の一環として、最終的な携帯電話での音源データの利用に向けたものであり、本件サーバのストレージがユーザのパソコンと携帯電話とをいわば中継する役割を果たして」いると考えられること(27頁)
(2)ユーザーが、本件ユーザソフトを用いずして、CD等の楽曲の音源データを「再生可能な形で携帯電話に取り込むことに関しては、技術的に相当程度困難である」こと(27-28頁)
(3)(1)、(2)より、「携帯電話にダウンロードが可能な形のサイト(本件サーバのストレージ)に音源データをアップロードし、本件サーバでこれを蔵置する複製行為は、本件サービスにおいて、極めて重要なプロセスと位置付けられる」こと(28頁)

そして、「イ 行為の内容」、「ウ 本件サーバの役割」、「エ ユーザの役割」、「オ 有償性」といった点について、個別に検討を加えた上で、

「本件サーバにおける3G2ファイルの複製行為の主体は、原告というべきであり、ユーザということはできない」(31頁)

という結論を導いた。


認定された事実のうち、裁判所の判断のポイントになっているものを挙げると、

イ 行為の内容
「本件ユーザソフトは・・・本件サーバの認証を受けなければ作動しないようになっており、・・・音源データは、紐付けされた特定のストレージ領域に蔵置される」(28頁)
ウ 本件サーバの役割
「本件サーバは、本件サービスにおけるこのような目的(注:ユーザの携帯電話における音楽の楽曲の再生)を実現するため、原告が所有し、管理して、維持運営する専用サーバであって、それ以外の役割を担うものではない。」(29頁)
エ ユーザの役割
「個々の3G2ファイルの蔵置について、その操作の端緒として、インターネットを経由したユーザの行為が観念できるとしても、ここでの蔵置における複製行為は、専ら、原告の管理下にある本件サーバにおいて、行われるものである」(30頁)
オ 有償性
「当初から、有料化と機能の拡張が予定されていた」(30頁)

といったところになるだろうか。


「イ 行為の内容」で指摘されている点などは、「私的複製」性を裏付けるものとして、むしろ原告に有利な材料にもなりうるように思えたのだが、裁判所はあくまで「原告の管理下で行われたかどうか」を判断基準に据えて、原告の主張を退けている。



本件判決に対しては、「今後本判決の影響が一般のストレージサービスにまで及ぶのではないか」と危惧する声も多いようだが、判決文を読む限り、それは杞憂のように思えてならない。


というのも、既に挙げたように、裁判所は本件サービスの「特殊な目的」を強調して結論を導いているし、今回被告となった当のJASRACでさえ、

一般のストレージサービスを利用して公衆に他人の著作権を侵害するファイルが送信された場合等において,著作権侵害の主体は,物理的,電気的に複製,送信行為を行っているサービス提供者ではなく,他人の権利を侵害するファイルをアップロードしたユーザと評価すべきであるとする見解がある。しかし,このようなサービスでは,ユーザは自由な手段を用いて自由な内容のコンテンツをアップロードでき,他方,サービス提供者は,単なる場の提供者にすぎない。上記の見解は,アップロードの過程や内容に全く関与する立場にないサービス提供者に対し,アップロードされる膨大な数のファイルの中から他人の権利を侵害するような少数のファイルを排除する義務を課することが酷であるという配慮が背景にある。」(6頁)

として、「一般のストレージサービス」まで止めるのが難しいのは重々承知、という姿勢を見せているからである。


もちろん、判決の結論が得てして一人歩きしがち、という事実は看過すべきではないし、「一般のストレージサービスなら・・・」という理屈が、慰めになるのかどうか疑わしいのも確かだ。


誰かが専用のソフトウェアを提供でもしなければ、一般の人が「ストレージサービス」の恩恵を受けるのは難しいだろうし*4、そもそも、「CDからとった音楽を携帯電話に転送するといった目的でサービスを提供すること」が否定されるのであれば、営利目的の「ストレージサービス」など成り立たないのでは・・・?という気もする。


企業向けの「書類保管庫サービス」的なニーズはあるにしても、一般個人向けのサービスとして絶好のアピールになるはずだった“ネタ”が潰されたことの影響は決して小さくはないのは事実だろう。


だが、本件が知財高裁に持ち込まれたとしても、公衆送信権侵害に関する判断(後述)はともかく、複製権侵害に関する判断が覆ることは考えにくい。


それゆえ、今から「ストレージサービス全般に“No!”を突きつけられた」かの如く騒ぎ立てるのは、かえって変な萎縮効果につながってしまうのではないか、と、自分はそちらの方をむしろ心配している。

公衆送信権侵害の成否

「複製権侵害のおそれ」を認めた以上、それ以外の争点についてはあえて判断する必要はなかったはずであるが、裁判所は、「本件事案の性質に鑑み」、公衆送信権侵害についてもあえて判断を行っている。


具体的には、複製権侵害の成否判断時に挙げた諸要素を再び取り上げ、

「本件サーバによる3G2ファイルの送信行為の主体は、原告というべきである」(34頁)

とした上で、

(1)「本件サービスを担う本件サーバは・・・ユーザの携帯電話からの求めに応じて、自動的に音源データの3G2ファイルを送信する機能を有している」こと
(2)「本件サービスは、・・・インターネット接続環境を有するパソコンと携帯電話を有するユーザが所定の会員登録を済ませれば、誰でも利用することができるものであり、原告がインターネットで会員登録をするユーザを予め選別したり、選択したりすることはない」こと
(3)「「公衆」とは、不特定の者又は特定多数の者をいうものであるところ(著作権法2条5項参照)、ユーザは、その意味において、本件サーバを設置する原告にとって不特定の者というべき」であること(以上、34頁)

から、

「本件サーバは、自動公衆送信のための装置に該当し、説明図(4)から(5)の過程における本件サーバからユーザの携帯電話に向けた3G2ファイルの送信(ダウンロード)について、自動公衆送信行為がされたということができる。」(34頁)

と結論付けている。


複製権侵害を肯定する結論については一定の理解を示す論者でも、公衆送信権侵害の成否に関する本件の結論に対しては懐疑的な見解を示す方が多いようで、筆者としても、実質的には“ピンポイントで会員に音源データファイルを送信している”本件のような事案で「公衆送信を行った」と解するのは、一般的な法感情に照らして疑問なしとはしない。


ただ、個々の送受信状況にかかわらず、「受信側」を総体として捉える考え方は、先行する裁判例でも既に見られるところであり、例えば選撮見録事件(大阪地判平成17年10月24日)では、

「あらかじめ録画予約の指示をしたビューワーの利用者のみが、番組の再生指示(送信の要求)をしてその信号を受信し、番組を受信することができるのであるから、送信を要求し、信号を受信する者を「公衆」ということはできない」

という被告の主張が、

「被告商品においては、番組の録画は、録画予約をしたビューワーの数にかかわらず、サーバーのハードディスク上の1か所にのみ、1組のみの音声及び映像の情報が記録されるものである。したがって、あらかじめ録画予約の指示をしたビューワーすべてに対し、その要求に応じて、記録された単一の情報が信号として送信されるものであるから、その人数の点を別とすれば、被告商品の利用者は、「公衆」であることを妨げる要素を含んでいるものではない。」
「被告は、公衆送信における「公衆」とは、不特定者や第三者であることを要すると主張するかのようでもあるが、そのように解することができない。」

と退けられていたりもする。


選撮見録事件の地裁判決に対しては、批判の声も強いところで、上記公衆送信権に関する説示に対しても、反対する説が有力に唱えられているから*5、今後高裁より上の段階で、一気に異なる判断へとひっくり返る可能性がないとはいえない。


ただ、繰り返しになるが、これまでの裁判例の動向に照らせば、本件のような“親切なサービス”を提供する限り、複製権侵害が否定される(ユーザーが複製行為の主体であると認められる)可能性は乏しいと思われるから、高裁段階で公衆送信権侵害が否定されることになったとしても、同種のサービスが全面的に肯定されるようになるまでには、まだまだ道は険しい、というべきではないだろうか。

おわりに

以上見てきたとおり、本件では原告の「貸金庫」という主張がことごとく退けられている。


だが、だからといって、裁判所が本件サービスを被告が主張していたような「ダビング屋」類似の業務と認めた、と断定するのは早計で、「貸金庫」には違いないが、それは「普通の貸金庫とは違う特殊な貸金庫」なので認められない、というのが本件判決の趣旨なのではあるまいか。


その意味で、あえて差止請求権不存在確認、という手に打って出た原告側の戦略は、決して無駄ではなかったように思う。


筆者としては、今後審級が上がっていく中で、「適法な事例」と「違法な事例」の間の境界線を、少しでもユーザーサイドの利便に資する方向に持っていってくれることを期待して、今後の経過を見守ることにしたい。

*1:別に張り合うつもりはないのだが、一日経つと一気に各種ブログ上でコメントの花が咲いてしまうから、今の時代って恐ろしい(笑)。

*2:原告・イメージシティ株式会社が、被告・JASRACに対して著作権侵害差止請求権不存在確認請求を提起した事件。

*3:第47部・高部眞規子裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070528141551.pdf

*4:これは自分で一からHTMLタグを打たないとホームページを作れなかった時代にホームページを持っていた人がほとんどいなかったのと同じで、誰かが“取っ付きやすい”ツールを提供しなければ、新技術の恩恵を受けたくても受けられない人は世の中にはたくさんいるのである。もちろん自分もそうだ(苦笑)。

*5:平嶋竜太「集合住宅向けハードディスクビデオレコーダーシステムの販売差止めと著作権法112条1項の解釈」L&T33号66頁(2006年)