留まるところを知らない小売等役務商標の出願ラッシュ。
ブランディのサイトで最新版のデータが更新されるたびに(http://www.brandy.co.jp/?document=News&id=253)、「虎ノ門の中のヒトも大変だなぁ・・・」と、ニヤニヤしたくもなるものだ。
現在公表されているのは、5月16日出願分までであるが、特例期間が終了する6月末日に向けた駆け込み出願もこれから予想されるところで、一体どこまで数字が伸びるのか、と興味津々で見守っている。
そんな中、NBL858号(2007.6.1)に、ユアサハラ法律特許事務所の青木博通弁理士の論稿が掲載されている。題して「小売等役務商標制度の守備範囲」。
さすがは、商標の第一人者が書かれた論稿ということもあって、他の雑誌等に掲載されている解説に比べ、導入の際の経緯や制度の概要の紹介にメリハリがあって読みやすいのだが、それに加えて「4 小売等役務商標の出願例の検討」のくだりが面白い。
大丸や三越、といった典型的な小売事業者の出願例について取り上げた後に、「小売等役務商標に該当するか否かは、明確になっていない」ショッピングモールについて、
「ショッピングモールの名称を出店している加盟小売店に使用許諾している場合には、加盟店の使用に基づく小売等役務商標の登録可能性も考えられる。実際に、ショッピングモールの名称「日比谷シャンテ」(2007-30127)を東宝が出願している。」(38頁)
と具体的な事例が紹介されているし、
「三菱グループと関係のない三菱鉛筆は、「三菱」(2007-30158)、「三菱の図形」(2007-30154)、「MITSUBISHI」(2007-30157)をすでに登録済みの商品商標と類似関係にある35類「紙類及び文房具の小売又は卸売の業務において行われる便益の提供」について、三菱グループに先に権利を取得されないように、2007年4月1日にしっかり出願している」(38頁)
「米国のデパート「bloomingdale's」(2007-29567)、「macy's」(2007-29568)は、総合小売のみを指定して出願しているが、飲食料品の取り扱いが10%を満たすか、特許庁により厳格に審査されることになろう。」(38頁)*1
といったマニアックな指摘もある。
また、以前本ブログでも指摘した*2、「大手電器メーカー数社」による、
「同じ商標(ハウスマーク)を1類似群コードごとに別々に多数出願している」(38頁)
という実態についても指摘があり、これについては、
「子会社へのライセンスの関係で早期に権利取得する必要からと推察される。ある程度予想されていたが、これに追随する企業も今後増えよう。」(38頁)
という見解が示されている。
「5 今後の課題」として、「特許庁と裁判所の判断基準が異なってくる可能性」に言及されるなど*3、7ページ分のシンプルな論稿ながら、小売商標制度の真髄を理解するにはもってこいの資料。
特例期間切れ(6月末日)を目前に控えた今頃になって、ようやく出願の準備を始めた、というありがちなパターンにはまりつつある諸兄も、そうでない方々にも、是非一読をお勧めしたい。
*1:青木弁理士は、「欧米のデパートは飲食料品を扱わない場合が多いため、総合小売について登録することができない可能性が高い」(34頁)という指摘もなされている。
*2:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20070504/1178269094#tb
*3:これは当然意識されて良い問題だと思うが、“公式解説”はもとより、他の実務家が書かれた論稿においてもこの点の指摘はあまりなされていない。