最高裁法廷意見の分析(第15回)〜難癖の付いた契約

久しぶりのこの企画。


少し遡るが、コンビニエンス・ストアのフランチャイズ契約の解釈が争われた事案を見てみることにする。

最二小判平成19年6月11日(H17(受)957号)*1

ここで問題になっていたフランチャイズ・チェーンのシステムにおいては「荒利分配方式」という方式が採用されており、

(1)本部側は売上高から「売上商品原価」を差し引いた売上総利益にチャージ率を乗じた額をチャージとして収受する
(2)人件費、廃棄ロス原価、棚卸ロス原価は営業費として加盟店経営者の全額負担とする

という説明が本部側からなされていた。


この説明に従うなら、「売上商品原価」に含まれるのは実際に売り上げた商品原価のみであり、廃棄ロス原価や棚卸ロス原価は含まれないと理解するのが通常であり、同チェーンの方式そのものが公序良俗違反とでも認定されない限り、そんなに争いになる余地はない事案であったように思われる。


ところが、当該文言をめぐって争われた本件控訴審では、

企業会計原則では、売上総利益は売上高から売上原価(これは廃棄ロス等も含む概念)を控除したものをいうところ、本件契約においても、売上総利益は売上高から売上商品原価を差し引いたものとされているから、本件条項所定の「売上商品原価」の文言は、企業会計原則にいう売上原価と同義のものと解するのが合理的である。」

という驚くべき解釈が示されたため、上告審に持ち込まれるという事態になったのである。


最高裁が認定した事実によると、契約締結前の本部の説明だけでなく、「システムマニュアルの損益計算書」なるものにも、個々の用語の意味の解説は掲載されていたのであり、あえて「企業会計原則」などという場違いなものを持ち出して、創設的な解釈を行う余地はなかったように思われる。


最高裁もそれは分かっていて、諸事情を総合した上で、

「本件条項所定の「売上商品原価」は、実際に売り上げた商品の原価を意味し、廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価を含まないものと解するのが相当である。そうすると、本件条項は上告人方式によってチャージを算定することを定めたものとみられる。」(8頁)

と本件にあっさりと決着を付けた。


・・・とここまでならあえて紹介するような事案ではないのであるが、問題はその後に付された、今井功(裁判官出身)、中川了滋(弁護士出身)両裁判官の補足意見にある。

今井功、中川了滋裁判官補足意見

両裁判官は補足意見の冒頭で法廷意見の結論を支持しつつも、

「本件条項の定め方が、明確性を欠き、疑義を入れる余地があったことが、本件のような紛争を招いたことにかんがみ、このような契約条項の在り方について、意見を述べておきたい。」(8頁)

と述べられる。


そして、問題点として、「売上商品原価」という用語の定義が契約書中にないことを挙げ、

「廃棄ロスや棚卸ロスは、加盟店の利益ではないから、これが営業費として加盟店の負担となることは当然としても、本件契約書においては、これらの費用についてまでチャージを支払わなければならないということが契約書上一義的に明確ではなく、被上告人のような理解をする者があることも肯けるのであり、場合によっては、本件条項が錯誤により無効となることも生じ得るのである。」

「加盟店の多くは個人商店であり、上告人と加盟店の間の企業会計に関する知識、経験に著しい較差があることを考慮すれば、詳細かつ大部な付属明細書やマニュアルの記載を参照しなければ契約条項の意味が明確にならないというのは、不適切であるといわざるを得ない。」

「上告人担当者から明確な説明があればまだしも、廃棄ロスや棚卸ロスについてチャージが課せられる旨の直接の説明はなく、これらが営業費に含まれ、かつ、営業費は加盟店の負担となるとの間接的な説明があったにすぎないというのである。」

と立て続けに述べた上で、

「上告人の一方的な作成になる本件契約書におけるチャージの算定方法に関する記載には、問題があり、契約書上明確にその意味が読み取れるような規定ぶりに改善することが望まれるところである。」

とまとめている。


一企業の契約に対して、最高裁の裁判官がここまで踏み込んだ見解を示すこと自体珍しいのだが、個人的な感想としては、まぁ随分と加盟店側の肩を持つものだと思った次第・・・(苦笑)。


最近の最高裁がいかにリベラルとはいえ、“消費者契約”ではないのだから、もう少しフラットな読み方をしても良いのでは、と思ったのは筆者だけだろうか。