帰って来たビジネスモデル特許(笑)の時代

「「知」的ユウレイ屋敷」さんも取り上げている、東京都民銀行三菱東京UFJ銀行の事件(http://chiteki-yuurei.seesaa.net/archives/20070704.html)。


日経新聞の記事では、本件が“ビジネスモデル特許”をめぐる争いである、と明確に“認定”されている。

東京都民銀行は2日、契約先企業に代わって従業員の実働分の給与を前払いするサービスのビジネスモデル特許を侵害したとして、東京地裁三菱東京UFJ銀行を提訴した。」
「銀行同士がビジネスモデル特許を巡り、法廷で争うことは珍しい」
日本経済新聞2007年7月3日付朝刊・第4面)

広告業界、百貨店業界と並んで訴訟を嫌うことで知られる金融業界*1が、わざわざ訴えを提起するというのだからただ事ではなさそうにも思えるが、原告側の武器がビジネスモデル特許、という時点でちょっと・・・というのが率直な感想だ。


同じように同業者に対してビジネスモデル特許を行使しようとしたJALANAの事件でも、結局請求放棄という中途半端な結末になっているし、まぁ概して紛争の元になる割には、役に立つことが少ない、というのが、“ビジネスモデル特許”なるものについての担当者レベルでの印象なわけで。


もっとも、“ビジネスモデル特許バブル”とでもいうべき状況だった2000年前後に比べると、最近成立したこの種の特許は、それなりに厳しい審査を経て特許になっているから、対応するにはそれなりの戦略が必要なのも確かである*2


ちなみに、都民銀が取得している特許は以下の2件。

第3685788号 「給与支払いシステム」
第3857279号 「給与支払いシステム」

先に登録された第3685788号は、拒絶査定不服審判まで経てやっとこさ登録にこぎつけたもので、

【請求項1】
労働者が雇用者に対して労働を提供することで順次累計される給与を、予め設定された給与日、及び前記給与日前であって労働者の希望する任意のタイミングにおいて支払う給与支払いシステムであって、該給与支払いシステムは、銀行口座にアクセスして引落処理及び振込処理を実行する銀行コンピュータを有し、該銀行コンピュータは、データを入力するインタフェース、前記インタフェースに接続された記憶装置、及び前記記憶装置に記憶されたファイルにアクセスしてデータ処理するとともにデータ処理結果に応じて前記引落処理及び振込処理を実行する処理装置を有し、前記インタフェースは、労働者端末から送信された、前記労働者が前記雇用者に対して労働を提供した後でかつ前記給与日前の任意の日を指定する希望日データ及び任意金額の資金データを入力するとともに、前記労働者の労働状況を管理するコンピュータから送信された、前記労働者の労働が提供される毎の労働データを入力し、前記記憶装置は、前記給与日と、前記インタフェースから入力された前記労働者の労働データを格納する労働データ管理ファイルと、前記労働データに基づき順次算出された前記労働者の任意タイミングにおける累計給与データ及び前記労働者に資金交付された金額データを格納する給与データ管理ファイルと、前記インタフェースから入力された希望日データ及び任意金額の資金データを格納する資金データ管理ファイルとを記憶し、前記処理装置は、前記記憶装置に記憶された前記資金データ管理ファイルの希望日データにより指定される日に、前記記憶装置に記憶された前記資金データ管理ファイルにアクセスして前記労働者の資金データで特定される金額を取得するとともに、前記記憶装置に記憶された前記給与データ管理ファイルにアクセスして前記希望日データにより指定される日における前記労働者の累計給与データで特定される累計給与額のうち未だ資金交付されていない残余の給与金額を抽出し、前記資金データで特定される金額と前記残余の給与金額とを大小比較する比較処理を実行し、前記資金データで特定される金額が前記残余の給与金額の範囲内である場合に、前記労働者の口座に対して前記資金データで特定される金額の振込処理を実行するとともに前記雇用者の口座に対して前記資金データで特定される金額の引落処理を実行し、前記資金データで特定される金額が前記残余の給与金額の範囲を超える場合に、前記振込処理を拒否する処理を実行し、又は、前記労働者の口座に対して前記残余の給与金額の振込処理を実行するとともに前記雇用者の口座に対して前記残余の給与金額の引落処理を実行し、前記給与データ管理ファイルの前記資金交付された金額データを更新し、かつ、前記記憶装置に記憶された給与日に、前記記憶装置に記憶された前記給与データ管理ファイルにアクセスして前記給与日における前記労働者の累計給与データで特定される累計給与額のうち未だ資金交付されていない残余の給与金額を抽出し、前記労働者の口座に対して前記残余の給与金額の振込処理を実行するとともに前記雇用者の口座に対して前記残余の給与金額の引落処理を実行することを特徴とする給与支払いシステム。

もう一つの第3857279号も

【請求項1】
労働者が雇用者に対して労働を提供することで順次累計される給与を、予め設定された給与日、及び前記給与日前であって労働者の希望する任意のタイミングにおいて支払う給与支払いシステムであって、該給与支払いシステムは、銀行口座にアクセスして引落処理及び振込処理を実行する銀行コンピュータ及び資金交付管理コンピュータを有し、該銀行コンピュータは、データを入力するインタフェース、及び前記インタフェースから入力されたデータに応じて前記引落処理及び振込処理を実行する処理装置を有し、該資金交付管理コンピュータは、データを入力するインタフェース、前記インタフェースに接続された記憶装置、及び前記記憶装置に記憶されたファイルにアクセスしてデータ処理する処理装置を有し、前記資金交付管理コンピュータの前記インタフェースは、労働者端末から送信された、前記労働者が前記雇用者に対して労働を提供した後でかつ前記給与日前の任意の日において任意金額の資金データを含む資金交付希望データを入力するとともに、前記労働者の労働が提供される毎の労働データを入力し、前記資金交付管理コンピュータの前記記憶装置は、前記給与日と前記労働者の労働データを格納する労働データ管理ファイルと、前記労働データに基づき順次算出された前記労働者の任意タイミングにおける累計給与データ及び前記労働者に資金交付された金額データを格納する給与データ管理ファイルと、前記任意金額の資金データを格納する資金データ管理ファイルとを記憶し、前記資金交付管理コンピュータの前記処理装置は、前記資金交付希望データにより設定される日に、前記記憶装置に記憶された前記資金データ管理ファイルにアクセスして前記労働者の資金データで特定される金額を取得するとともに、前記記憶装置に記憶された前記給与データ管理ファイルにアクセスして前記労働者の累計給与データで特定される累計給与額のうち未だ資金交付されていない残余の給与金額を抽出し、前記資金データで特定される金額と前記残余の給与金額とを大小比較する比較処理を実行し、前記資金データで特定される金額が前記残余の給与金額の範囲内である場合に、前記銀行コンピュータに対して振込データを送信し、前記銀行コンピュータの前記処理装置は前記振込データに応じて前記労働者の口座に対して前記資金データで特定される金額の振込処理を実行するとともに前記雇用者の口座に対して前記資金データで特定される金額の引落処理を実行し、前記資金データで特定される金額が前記残余の給与金額の範囲を超える場合に、前記振込処理を拒否する処理を実行し、又は、前記銀行コンピュータに対して振込データを送信し、前記銀行コンピュータの前記処理装置は前記振込データに応じて前記労働者の口座に対して前記残余の給与金額の振込処理を実行するとともに前記雇用者の口座に対して前記残余の給与金額の引落処理を実行し、前記給与データ管理ファイルの前記資金交付された金額データを更新し、かつ、前記資金交付管理コンピュータの前記記憶装置に記憶された給与日に、前記記憶装置に記憶された前記給与データ管理ファイルにアクセスして前記給与日における前記労働者の累計給与データで特定される累計給与額のうち未だ資金交付されていない残余の給与金額を抽出して前記銀行コンピュータに対して振込データを送信し、前記銀行コンピュータの前記処理装置は、前記振込データに応じて前記労働者の口座に対して前記残余の給与金額の振込処理を実行するとともに前記雇用者の口座に対して前記残余の給与金額の引落処理を実行することを特徴とする給与支払いシステム。
【請求項2】
労働者が雇用者に対して労働を提供することで順次累計される給与を、予め設定された給与日、及び前記給与日前であって労働者の希望する任意のタイミングにおいて支払う給与支払いシステムであって、該給与支払いシステムは、銀行口座にアクセスして引落処理及び振込処理を実行する銀行コンピュータ及び資金交付管理コンピュータを有し、該銀行コンピュータは、データを入力するインタフェース、及び前記インタフェースから入力されたデータに応じて前記引落処理及び振込処理を実行する処理装置を有し、該資金交付管理コンピュータは、データを入力するインタフェース、前記インタフェースに接続された記憶装置、及び前記記憶装置に記憶されたファイルにアクセスしてデータ処理する処理装置を有し、前記資金交付管理コンピュータの前記インタフェースは、労働者端末から送信された、前記労働者が前記雇用者に対して労働を提供した後でかつ前記給与日前の任意の日において任意金額の資金データを含む資金交付希望データを入力するとともに、前記労働者の労働が提供される毎の労働データを入力し、前記資金交付管理コンピュータの前記記憶装置は、前記給与日と前記労働者の労働データを格納する労働データ管理ファイルと、前記労働データに基づき順次算出された前記労働者の任意タイミングにおける累計給与データ及び前記労働者に資金交付された金額データを格納する給与データ管理ファイルと、前記任意金額の資金データを格納する資金データ管理ファイルと、労働者の1日当たりの所定の資金交付可能金額データを格納するファイルを記憶し、前記資金交付管理コンピュータの前記処理装置は、前記資金交付希望データにより設定される日に、前記記憶装置に記憶された前記資金データ管理ファイルにアクセスして前記労働者の資金データで特定される金額を取得するとともに、前記資金データで特定される金額と前記労働者の前記1日当たりの所定の資金交付可能金額データで特定される金額に前記労働者の労働日数を乗じて得られる金額を大小比較する比較処理を実行し、前記資金データで特定される金額が1日当たりの所定の資金交付可能金額データで特定される金額に前記労働者の労働日数を乗じて得られる金額の範囲内である場合に、前記銀行コンピュータに対して振込データを送信し、前記銀行コンピュータの前記処理装置は前記振込データに応じて前記労働者の口座に対して前記資金データで特定される金額の振込処理を実行するとともに前記雇用者の口座に対して前記資金データで特定される金額の引落処理を実行し、前記資金データで特定される金額が1日当たりの所定の資金交付可能金額データで特定される金額に前記労働者の労働日数を乗じて得られる金額の範囲を超える場合に、前記振込処理を拒否する処理を実行し、前記給与データ管理ファイルの前記資金交付された金額データを更新し、かつ、前記資金交付管理コンピュータの前記記憶装置に記憶された給与日に、前記記憶装置に記憶された前記給与データ管理ファイルにアクセスして前記給与日における前記労働者の累計給与データで特定される累計給与額のうち未だ資金交付されていない残余の給与金額を抽出して前記銀行コンピュータに対して振込データを送信し、前記銀行コンピュータの前記処理装置は、前記振込データに応じて前記労働者の口座に対して前記残余の給与金額の振込処理を実行するとともに前記雇用者の口座に対して前記残余の給与金額の引落処理を実行することを特徴とする給与支払いシステム。

と一見すると似たような構造である*3


明細書の記載がこれだけ悪文だと、当の発明者本人も読むのが嫌になるだろうし、ましてや、自社のシステムの構成要件充足性を逐一判断させられる“訴えられた側”の苦労はいかばかりか、と思うのであるが、ここはあっさりと白旗を揚げることなく、歴史に残るバトルを展開していただくことを、非当事者としては期待したいところである(笑)。

*1:国税関係や債権取立てに関する訴訟などは別にしても。

*2:初期のビジネスモデル特許の場合、結構あっさりと無効事由が見つかるものだが、最近のものはその辺はうまくすり抜けているものが多いので、あとは無効理由回避のために付した限定部分等を捉えて、構成要件との差異をいかに見つけ出すか、というところが重要になるように思われる。

*3:いずれも同じ発明を基礎に優先権出願されたものなので、似たような中身になるのは当然の話。

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