空回りする文化庁

財務省が行った2007年度予算執行調査の結果が発表されており、その中に、「著作権に関する普及啓発事業(著作権読本の配布)」に対する評価が掲載されているのだが、これがヒドイ*1


この事業は、平成18年度に3900万円、平成19年度に3800万円の予算を計上し、

著作権に関する読本を全国の中学校に配布し、学校教育等を通じ著作権に関する知識と意識の普及を図ることを目的としている。」

ものであり、調査は、

著作権教育は学習指導要領に基づき技術・家庭科の教科書の中で取り扱われているが、別途副教材として著作権読本(以下、「読本」という)が配布されている現状を踏まえ、教育現場における読本の利活用状況を把握することにより当該読本が真に必要とされているか検証を行う。」

という視点から行われたのであるが、各都道府県及び政令指定都市の公立中学校のうち、生徒数の多い上位3割(3,068校)を調査対象とした*2その結果は散々なもの。

1 読本を授業で使用している学校 872校 30.4%
2 読本を配布(閲覧)するだけ又は使用していない学校 1,674校 58.3%
3 読本を持っていない学校 324校 11.3%

調査対象の学校のうち、読本のような紙ベースの教材を希望する学校はわずか751校に過ぎないし、それ以外の1,923校はパソコンソフトやHPからのダウンロード等の電子媒体の教材で十分であるとしている。


そして、そもそも著作権に関する授業を行っていない学校が680校あることも判明した。


その結果付された講評は、

【まとめ】
 読本を授業で使用している学校は調査対象の3割程度であり、残りの7割程度の学校では読本が配布されるだけであったり、使用されていないなど、読本が著作権教育に必須な教材とは言えず、読本を各学校に配布する必要性は小さいと考えられる
 したがって、読本の配布は著作権に関する知識と意識の普及啓発を図るという事業目的達成のための有効な手段とは言えず、予算の効率的な執行の観点から、読本の配布は廃止すべきである
【今後の改善点】
 読本を使用している学校における教育現場のニーズとしては、電子媒体の教材の必要性が多数を占めているところであり、例えば、技術科の情報の時間を有効活用し、パソコンを用いて必要な教材をダウンロード等の手段で入手させることに併せ、著作権に係る諸問題を体験的に教育することで、より実践的な知識を身につけさせることなどが考えられる。
また、教材をHP上で公開することとなれば、学校に限らず広く一般に対し著作権に関する知識と意識の普及啓発を図ることも期待できる
 なお、そもそも著作権教育を行っていない学校が、調査対象の2割強あったことを踏まえ、今後著作権教育の必要性を喚起する必要がある

対象となった全62事業のうち、全面的な廃止を提言されたのは4事業だけ。その中の一つに入ってしまったのだから、これは重症だ。


世界史の問題と同じく、入試に直接関係しない授業を手抜きしてしまう学校がいかんのか、それとも副読本を作って安心してしまった文化庁がいかんのか、安易な評価はしかねるが、「著作権啓発」なるものが容易な作業ではないのは確かで、著作権の話題が出てきたときに、議論が錯綜しがち(その多くが根本的な知識不足によるもの)になるのも、その辺に遠因があるような気がする。


まぁ、著作権といえば、そもそも、権利者とユーザーとの間の利害調整をめぐって、様々な解釈が可能な領域だけに、個人的には、文化庁が一方的な考え方を生徒たちに植えつけていないか、教材を広く公開して公衆のチェックに委ねる必要もあるのでは・・・? と思っている。

*1:http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/sy190706/1907d_20.pdf

*2:回答校数2,898校(回収率94.5%)、うち有効回答校数2,870校、生徒カバー率45.0%

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html