商標いろいろ(その6)〜恐怖の知財高裁第3部

ここのところ貯まっていた裁判例をいくつか眺めていたら、飯村敏明判事が裁判長を務める知財高裁第3部が強烈な判決を連発していることに気付いた。


マグライト立体商標をめぐる判決などは、実務界に“怨嗟”と“絶望”の声があふれるような(やや大げさだが)中身だと思うのであるが、それと相前後して出されている、以下の判決群もなかなかのものである。

知財高判平成19年6月27日(H19(行ケ)第10001号)*1

まず手始めに、「SIMPO」(第4872122号)という商標に対する登録異議申立が特許庁で認められたのを受けて争われた、登録取消決定取消事件。


引用商標は「SHINPO」(第3049433号)という商標で、称呼(シンポ)、外観、観念が一致する、と判断されてしまうのは仕方のないところなのだが、取り消された本件商標の役務が「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらにより構成される設備の設計」(42N03)であったのに対し、引用商標の役務が「ロースター又は厨房用の排気装置の設計」(42N01)であり、両者の類似群(カッコ内)が異なるため、ここで役務類似と判断できるかどうかが、一つの争点となった。


結論としては、引用商標の役務にある「ロースター又は厨房用の排気装置」の取引実態に着目した上で役務類似という判断を導いているのだが、その際、「類似群コードの違い」を主張する原告の主張に応答して、裁判所は次のような判示を行っている。

「類似群コード番号を記載した「類似商品・役務の審査基準」は、特許庁における商標登録出願の審査事務等の便宜と統一のために定められた内規にすぎず、法規としての効力を有するものではない」(11頁)

同じようなことは過去の裁判例でも述べられていることで、しかも内容的には全くの正論なのであるが、特許庁が出した結論を維持する判決の中で述べられた説示だけに若干キツイ印象を受ける。


だが、これはまだまだ序の口である。

知財高判平成19年6月27日(H18(行ケ)第10543号)*2

本件は、「POUT」という商標に対する拒絶査定不服審判不成立審決に対する取消訴訟


引用商標は「PORT」(第1987345号)などで、原審決はこれらの商標が本件商標に類似する、として4条1項11号によって拒絶査定を維持していたのだが、知財高裁第3部はこの判断を覆した。


特許、商標を問わず、拒絶査定不服審判がらみの取消訴訟で、審決がひっくり返るのは珍しい。


特に商標の場合、専門家の間では、類否判断も常識的なところに落ち着くのが通常であるから、4条1項7号のような、法解釈が割れる場合を除き、淡々と原審決維持で決着が付くのが普通であった。


ところが、本判決は「観念」「外観」「称呼」のいずれについても非類似、として、拒絶査定を維持した原審決を覆したのである。


理由を見ると、

「(1)本願商標を構成する「POUT」の欧文字は、「ふくれっ面をする、口をとがらず」又は「ナマズの一種」等の意味を有し、我が国では、大学教養程度又はそれ以降に学習される英単語であり(略)、あまり親しまれてはいないものの、中学程度の英語学習に用いられる辞典にも掲載されており(略)、ごく平易な単語であること」(11頁)

といった認定があったり、「「OUT」を「アウト」と発音するのは通常であ」り、ゆえに称呼は「パウト」となる、といった認定など、やや強引な感もあるのだが・・・。

知財高判平成19年6月27日(H19(行ケ)第10084号)*3

「ココロ/KOKORO」(第1916238号)に対する不使用取消審判不成立を受けて行われた審決取消請求事件。


登録商標の態様と実際の使用態様との間に大きな違いがあっても「社会通念上同一の範囲」に含まれるとされているし、取引書類に被告商標を付したという程度の実績でも「商標の使用に該当する」とされていて、少々緩い判断のようにも見えるが、不使用取消であることを考えるとこんなものだろう。


それよりも凄いのは、「3 結語」と題された章で述べられた以下のくだりである。

「ところで、取消審判請求の審理の対象たる指定商品の範囲は、設定登録において表示された指定商品の記載に基づいて決められるのではなく、審判請求人が取消しを求めた審判請求書の「請求の趣旨」の記載に基づいて決められる。そして、審判請求書の「請求の趣旨」は、(1)審判における審理の対象・範囲を画し、(2)審判被請求人における防御の要否の判断・防御の準備の機会を保障し、(3)取消審決が確定した場合における登録商標の効力の及ぶ指定商品の範囲を決定づけるという意味で重要なものであるから、「請求の趣旨」の記載は、客観的で明確なものであることを要するのは当然である」(14-15頁)

そして、審判請求書の「請求の趣旨」において、原告が取り消しを求めた指定商品として記載されていた「唾液を用いて人間のストレス度合いを測定する装置その他の測定機械器具及びこれらに類似する商品」という記載と、被告商標の指定商品との関係等が分かりにくい等の理由で、

「同記載は・・・著しく不明確である」(15頁)

とし、

「このような場合に、審判において、何らの措置を採ることなく手続を行うことは、前記の(1)審理の対象の確定、(2)審判被請求人の防御機会の保障、(3)取消審決の効力の及ぶ範囲の確定等の点において、当事者及び第三者を含め、混乱を招くおそれがある。特に、仮に取消審決がされて確定した場合には、商標登録に係る指定商品から「・・・これらに類似する商品」が除外されることになるがこのような不明確な審決が、効力を生ずる事態を許すことは、いたずらに混乱を招くものというべきである。」
「したがって、商標登録の取消審判請求の(ママ)審理する審判体としては、釈明を求める、補正の可否を検討する等の適宜の措置を採るべきであり、そのような措置を採ることなく、漫然と手続を進行させた審判のあり方には妥当を欠く点があったというべきである。」(15頁)

請求を特定し、審理範囲と攻撃防御対象を明確化する必要がある、というのは民事訴訟においては基礎の基礎、ともいうべき話で、それを審判手続にあてはめれば、当然上記のようなことになるのだろう。


だが、不使用取消を認めるかどうかの結論は、原審決のそれを維持しているのだから、何もそこまで書くことはなかろう・・・と思ってしまうのは筆者だけだろうか。


まぁ、そこを筋の通った美しい法的三段論法できっちりと正すのが“飯村コートクオリティ”なのかもしれないが(笑)。


ちなみに、この判決、飯村判事・三村判事がタッグを組んだ合議体で書かれているのだが、

「裁判官三村量一は、海外出張のため署名押印することができない。」

だそうで、この辺も含めて異例の判決(爆)。


特許等の審決取消訴訟でどのようなことになっているのかはまだ確認していないが、この第3部の“積極主義”は、ウォッチャーにとっては絶好の素材、特許庁にとってはある種の脅威となることは、間違いないように思われる。

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