ジャッジ不在の紛争解決?

太陽誘電台湾製DVD-Rの輸入差止を申し立てた、というニュースを見て、知財侵害の水際対策も進んでいるんだなぁ・・・と感心していたのだが、記事を読んでいくうちに「?」と思ったのが以下のくだり。

「申請が受理された場合、全国の税関が輸入DVDを検査、特許侵害の疑いがある製品の分解や分析を太陽誘電に委託する。同社の分析結果から特許侵害が判明すれば税関が該当する製品を没収・廃棄する」(日本経済新聞2007年8月3日付朝刊・第11面)

税関のスタッフは輸出入管理の法令解釈や違反者の摘発技術には長けているだろうが、特許権侵害かどうかを見極めるための技術的素養を身につけている人は限られているはずで、それゆえ、純粋な法的・事実的判断を超えた技術的な鑑定は第三者にお願いしてやってもらう必要が出てくる。


そこまでは筆者も理解できるのであるが、その委託先が差し止め申立人・・・って、どうよ(笑)。


制度上は、ここで太陽誘電が行うのは、あくまで「分解・分析」と「その結果の報告」であって、最終的なジャッジは税関自身が行うという建前になっているのだろうが、最終的な特許侵害成否の判断が、侵害物件の構成の認定に大きく左右される、というのは経験のある人なら容易に分かることだろう。


ましてや特許権者自身が行う認定、とくれば、その気になれば、自らの特許のクレームに合わせて「侵害物件」の構成を作為的に認定することなんて、お茶の子さいさい、である。


分解・分析を委託するなら、十分な解析機器を備え、日常的にそれを仕事で使っている同業メーカーに頼むのが一番効率的なのはいうまでもない。だが、公平な法の適用、という観点からは、一歩間違えば“茶番劇”と言われかねない、そのような制度設計が許されるのか、疑問の余地が残るところである。


もちろん、後々紛争が裁判所に持ち込まれて結論がひっくり返れば、申立人は相応の代償を支払わされることになるのだが、猛烈なスピードでコスト削減や技術革新の競争が行われている業界のこと、「とりあえず差止めてしまう」だけで申立人が競争上優位に立つことも大いに考えられる。


また、立場が逆転して、中韓台の税関当局が同じようなことをやり始めたら・・・ということを想像すると、何とも恐ろしい。


やはりここは、“李下に冠を正さず”の精神で、中立的な検査機関に委託するか、同業者に委託するにしても業界団体を通じて申立人以外の会社に委託する、などといった制度設計にするほうが、穏当だと思うのであるが、「知財大国」を目指すわが日本において、そのような主張が出てくる余地はないのだろうか・・・?

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