三宅編集委員、吼えるの巻。

日経新聞が一面を丸々割いて組んだ「ファンド株主」に関する特集記事(2007年8月9日付朝刊・第6面)。


先日のブルドッグ最高裁決定を受けてのことかと思ったのだが、全体的な論調としては、むしろその前の話題=ブルドッグ高裁決定と村上ファンド事件地裁判決に対する“反発心”を強く感じさせるものになっている。


例えば、三宅伸吾編集委員による署名記事などは相当過激だ。

「この夏、アクティビスト・ファンドを巡る司法判断に資本市場関係者の冷たい視線が集まった。」
「サヤ取り業者への裁判官の強い嫌悪を読み取り、市場関係者の間に司法不信が広がった。」

という書き出しで始まったこの記事。


まず村上ファンド事件における、

「安ければ買うし、高ければ売るのは当たり前」との「利益至上主義には慄然(りつぜん)とせざるを得ない」

という地裁の説示を

「利潤動機が広く否定されてはデイトレーダーも困惑するだろう」

と、やんわりたしなめ、上記説示と、ブルドックソース事件で東京高裁が行った「濫用的買収者」認定を合わせて、

「銀行が経営監視機能を失い、ファンドが規律確保に重要な役割を果たすなかで、二つの司法判断からはこうした認識がうかがえない。経営者をビクビクさせることが非難されるのなら、「株主がガバナンスを利かせるのはかなり困難になる」(岩瀬大輔ネットライフ企画副社長)

と指摘した後に、ブルドッグソース高裁決定の

「「創業以来百余年の歴史」の企業が解体される理由はない」

という一節を

会社法は、いつ、文化財保護法になったのだろう」

と切り捨てるあたり、なかなか痛快である。


正直言って、筆者自身、村上ファンド事件における“見せしめ的説示&制裁”には首を傾げざるを得ないし、ブルドッグソース事件高裁決定に出てくる裁判官の自己陶酔的な古典的節回し(笑)も全く評価できない*1


判決・決定全体を見れば一応筋は通っているし、理解できる内容になっているとしても、所々で見られる感情的な説示によって、判決・決定そのものの信頼性が損なわれた、という点において、“書いてはいけない判決”の最たるものではないか、とさえ思えてしまう*2


言葉尻を捉えて一方的に非難する側は「非建設的」というそしりを免れ得ないとしても、リーディング・ケースとされる事件を裁く上で上記のような突っ込みどころを与えてしまう文章を書くというのは、やはり問題があると思うのだ。


だから、

最高裁の決定はサヤ取り業者への嫌悪感をにじませない淡々とした書きぶりだった。」
「この決定に多くの市場関係者がほっとしたことだろう。」

という心情も当然理解はできる。



この特集に出てくる、大崎貞和・野村資本市場研究所研究主幹、上村達男・早稲田大教授、笹沼泰助・アドバンテッジパートナーズ代表、矢野佳彦・ゴールドマン・サックス証券M&A統括責任者、といった識者の最高裁決定に対するコメントがほとんど噛みあっていないことからも分かるように、この問題はそれぞれの論者の立場によって、着目する点も個々の論点に対する考え方も全く異なるものだといえるだろう。


そもそも「株主」といっても、会社の創業者もいれば社員株主もいる。


経営者同士のお付き合いで持ち合っている大企業もいれば、サヤ取り狙いのファンドやデイトレーダーもいるし、社会勉強のつもりの学生もいれば、株主優待狙いのオバちゃんもいる。


全ての者が経営に関心を持っているわけでもなければ、全ての者が利ざや狙いで保有しているわけでもない。


要は、それらをひとくくりにして論じることなど本来不可能だし、経営陣、従業員といった内側の人間や他のステークホルダーとの対立構造をステレオタイプに見いだそうとするのも合理的な話とはいえないのである。


それゆえ、買収防衛のような、会社を取り巻く利害関係者の思惑が交錯するような事案においては、株主構成や会社の置かれている環境、発動に至るまでの経緯等、詳細な認定事実を基礎に、淡々と事例判決を書くのが裁判所の望まれる姿なのであって、下手に振りかぶって一般論を唱えるようなことをしてしまうとあちこちからの総攻撃にさらされることになるのは、火を見るより明らかだろう。


頭の良い人間は、とかく一般的規範の定立に情熱を燃やしがちだし、法律実務家の中でも“トップ・エリート”と目される人々が集う会社法業界は、とかくその傾向が強いように思われるのだが、そういう世界に限って、実は一般的抽象的規範をもっとも定立しにくい、というのは、何とも皮肉な話。


だが、それもまた現実である・・・。

*1:ブルドッグソース事件で「チーム岩倉」が用いたスクイズ・アウト戦法は、「防衛策」というにはあまりに買収側を優遇しすぎるものだけに、防衛策で会社の価値を毀損された!と主張する一般株主からクレームが出ることはあっても(もっとも特別決議で承認されてしまった以上、代表訴訟もままならない状況と言わざるを得ないのだが。)、本来買収側からクレームを出されるようなものではないはずだ。

*2:日頃から裁判官の感情があまり前面に出ることのない知財系の判決ばかり読んでいるから、なおさらそう感じてしまうのかもしれない。

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