「王将」対決

餃子の王将」といえば、学生時代大変によくお世話になったものだ。


当時良く使っていた下●沢の「王将」は、セットを頼むとご飯がエンドレスにお替りできたから、数人で押しかけて、一人が「餃子セット」を、残りの人間が餃子を単品で注文し、後はセットを頼んだやつがお替りした白米を皆で回しあって食う、なんて、そんな意地汚いこともよくやっていた*1


だが、以下で取り上げる商標をめぐる争いは、関東人にとっては唯一無比の存在である、餃子の「王将」の地位も、実は盤石なものではない、ということを白日の下に晒すことになった。

知財高判平成19年7月19日(H18(行ケ)第10519号、第10091号)*2


本件は商標無効審判の審決をめぐって、株式会社王将フードサービス京都王将=いわゆる「餃子の王将」)と、イートアンド株式会社(大阪王将)が争った事例であり、A事件、B事件の二事件が併合されている。


A事件は「餃子の王将」のロゴ(登録第4868675号)を無効とした審決(無効2005-89164号、商標法4条1項11号に該当することを理由とする)の取消を原告が王将フードサービス側が求めているもの、B事件は「元祖餃子の王将」(登録第4559956号)の無効審判請求を不成立とした審決(無効2005-89170号)の取消をイートアンド株式会社側が求めているもの、と、文字通り両者があいまみえる構造になっているのだが、いずれも被告が保有、使用している商標「王将」(第1673048号)などが引用商標とされており、争点自体は共通しているといえる。


認定事実によれば、株式会社王将フードサービスは、昭和49年7月に京都市で設立された会社であり、一方のイートアンド株式会社は昭和52年8月に大阪市において設立された会社である(前者の営業自体は昭和42年第1号店の閉店から始まっている)。


当事者の主張によれば、大阪王将は、京都王将の元従業者が設立者となって始めたビジネスのようで、営業地域としても近接しているから、京都王将側が接近戦に対して過敏になるのもやむを得ないところであろう。


過去には、京都王将大阪王将に対して、不競法に基づく差止請求訴訟を提起し、結局、

「日本国内で中華料理店を営むにつき、原告は「餃子の王将」と表示し、被告及び王将チェーン株式会社(注:現在のイートアンド株式会社)は、「大阪王将」、「中華王将」と表示する

こと等を内容とする訴訟上の和解(昭和60年12月2日)が成立したこともある。


ややこしいのは、本来先発の大手事業者であるはずの「京都王将」が、こと商標対策の面では、大阪王将に遅れをとっている、ということで、なんといっても、「ぎょうざ、しゅうまい」を含む「王将」の商標(第1670348号)を持っているのは大きい。


それゆえ、京都王将にとっても、「餃子の王将」の看板の使用を専用権の抗弁で守りきるために、負けられない戦いとなったのである。



それでは、裁判所はどのような判断を示したか。


知財高裁は、商標の類比判断に関し、

「(外観、観念、称呼の)上記三点のうちその一において類似するものでも、他の二点において著しく相違することその他取引の実情等によって、なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては、これを類似商標と解すべきではない(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。」
「商標は、その作成者の意図如何にかかわらず、常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼、観念されるとは限らず、しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念され、一個の商標から二つ以上の称呼、観念の生ずることがあるところ、一個の商標から二つ以上の称呼、観念が生ずるものと認めることが許されるかどうかは、当該商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているか否かによって決せられるべきである(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁参照)。

と二つの代表的判例を引用した上で、A事件については、本件商標と引用商標とを対比し、

餃子の王将」という表示(A商標)と「王将」という表示(引用各商標)である点で、表示内容が異なり、外観上、A商標と引用各商標とは区別できるというべきである。」(66頁)

と三要素のうち、外観において区別しうる、とした。


そして、京都王将

「共通の指定商品である餃子に関し、その取引者・需要者には、A商標は高い識別力を有し、その外観により原告の商品であることを想記させるものとして引用各商標と識別することは十分に可能」(69頁)

であり、

「被告商品は、生協、宅配業者、スーパー等での販売のいずれも大阪王将のブランドであることを正しくアピールしていること、A商標を使用した原告の中華料理店での上記営業実績からすれば、被告の主張は上記判断に影響を及ぼさないというべき
である。」(69頁)

として、商標を無効とした審決の結論を覆した。


原告の看板が全国あちこちで使われていることなどを考えると、至極まっとうな結論ということができ、筆者としては異論はない。



だが、この訴訟はここで終わらなかった。


B事件については裁判所は、

「外観上、B商標と引用各商標は区別しうるが、B商標においては、文字や配列、配色等に特段の特徴はなく、かえって引用商標1、2とは漢字の「王将」を横書きにする点において共通し、外観上の差異はそれほど顕著とはいえないというべきである。」(70頁)

とし、さらに「元祖餃子の王将」という商標からは、

「原告の店舗名がそれなりに一般消費者に周知であるとはいえるとしても、そこから直ちにB商標から原告の店舗名である「餃子の王将」を観念するとするには飛躍があるというべきである」(71頁)

として、引用された「王将」商標との観念の差はほとんどないもの、と認定した。


そして、原告が上記商標を使用していなかったことなどと合わせて、

「B商標と引用各商標とは、観念をほぼ同一にし、称呼上及び外観上の差異も顕著とはいえないものであるから、同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがある類似の商標であるといえる。」(73頁)

と述べ、こちらではA事件とは逆に、商標の有効性を維持した審決を取り消したのである。



京都王将としては、自己の“看板”こそ守ったものの、「王将」商標を大阪王将に押さえられている限り、それを超えた「王将」の新しい使い方を模索するには、いささか厳しい状況になったといえる。


大阪王将側が保有している「王将」商標は、元々第三者保有していたもの、だということだから、京都王将側に一概に落ち度があるとはいえないのだが、やはり、自分のサービスの根幹となるブランドを独占できない状態が望ましくないのは、言うまでもあるまい。


この先、京都対大阪、の「王将」対決がどのような展開を見せるのか、筆者の知るところではないが、あの餃子の味と、「何杯でもお替り自由」的なおおらかさ*3が受け継がれていくことを願うのみである。

*1:何せ、月末になると財布に硬貨しか残らない生活だっただけに、背に腹は変えられなかったのである・・・。

*2:第2部・中野哲弘裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070726093636.pdf

*3:今同じようなサービスがあるかどうかも筆者の知るところではない・・・。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html