設計図の著作物性

「設計図」といえば、世の中では当然のごとく著作物と受け止められることが多いものなのだが、スモーキングスタンド事件(東京地判平成9年4月25日)での冷淡な説示を見るまでもなく、裁判所においては、設計図面、特に工業製品の設計図面の著作物性に関して厳しい判決が続いているのが現実である*1


そんな状況にさらに掉さすような一事例。

知財高判平成19年8月28日(H19(ネ)第10015号)*2

控訴人: 株式会社イー・ピー・ルーム
被控訴人:住友石炭鉱業株式会社


判決でも認定されているとおり、この両者の間では「放電焼結装置」という発明に関して壮絶な泥仕合が繰り広げられており、特許異議申立てに基づく取消決定が確定した後に(最高裁平成15年10月9日上告不受理決定)、現・被控訴人が異議申立を行ったことが不法行為にあたる、として現・控訴人が損害賠償請求訴訟を提起した(逆に被控訴人側は訴訟の提起が不法行為にあたるとして控訴人に対して反訴請求を行った)、という経緯がある。


そして、その泥仕合の中で持ち出されたのが「設計図の著作権侵害」という争点であった。


裁判所は以下のように述べて、設計図の著作物性を否定している。

「本件原告設計図(甲8の1)は、その記載からみて、放電プラズマ焼結機という機械の設計図であり、同一の機械を設計図に表現するときは、主として線を用い、これに当業者間で共通に使用されている記号や数値を付加して二次元的に表現するものであって、その性質上、表現の選択の幅が限定されていると言わざるを得ず、同一の機械を設計図に表現するときは、おのずから類似の表現にならざるを得ないものであるから、これが創作的に表現された著作物である(著作権法2条1項1号)ということはできず、またかかる表現上の創作性についての具体的な主張立証もない。」(14頁)

従来の判決で述べられていることとほとんど中身に変わりはないのだが、太線の部分などを読むと、少なくとも「機械の設計図」については、著作権法による保護の余地はほとんどないだろう、ということにあらためて気付かされる。


本件の場合、他の争点が、「詐欺」だとか「私文書偽造」といった、感情の赴くままに主張されたような類のものであり(当然ながら本人訴訟である(苦笑))、控訴人側に同情の余地はないのであるが、こんな“トンでも事件”の中での判旨でも、一先例になりうることを考えると、本件控訴人に対しては、何とも罪なことをしてくれるものだ・・・、と言わざるを得ない。

*1:田村善之『著作権法〔第2版〕』(有斐閣、2001年)93-94頁。

*2:第2部・中野哲弘、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070829154546.pdf

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