以前、本ブログでちょこっと紹介した「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」だが*1、意見募集手続を終え、平成19年9月28日付けで正式に公表されている。
(http://www.jftc.go.jp/pressrelease/07.september/07092803.pdf)
いつものことながら、そんなに大きな変更がなされているわけではないので、末尾に付いている「意見の概要」とそれに対する「考え方」をざっと眺めておけば足るのであるが、その中で若干の意義が認められそうなものを以下取り上げておくことにしたい。
第3 1-(1)-エ及び第4-2-(2)【8頁及び14頁】
多数の事業者が製品の規格を共同で策定している場合の「私的独占」、「不公正な取引方法」該当性に関する、
「ライセンス条件を偽るなどの不当な手段を用いて・・・ライセンスを拒絶し」とあるが、「当初提示したライセンス条件でのライセンスを拒絶し」という文言を明記し、「・・規格が確立されて他の事業者が当該技術についてライセンスを受けざるを得ない状況になった後で当初提示したライセンス条件でのライセンスを拒絶し」と修正すべき。」(団体3)
という意見に対し、当局は、
「規格策定の過程において不当な手段を用いた上でライセンスを拒絶することについての考え方を述べたものであり、当初提示したライセンス条件を変更すること自体が直ちに問題となるものではありません。」
と回答している。
もちろん、実質的にライセンス拒絶に等しいような、あまりに大幅な条件変更であれば、行為規制の俎上に載せられることになるのだろうが、そのような状態に至らなければ条件変更も認められる、という考え方が明確に示された意味は、それなりに大きいというべきだろう。
第4 4-(7)【19頁】
前回、グレーが「白」になった事例として紹介した「不争義務」に関する記述だが、やはり反発を免れなかったようだ。
「不争義務を原則合法化すると、大量の無効特許という社会的な不良資産を抱え込むことになることなどが懸念されることから、改定原案の考え方には反対(現行指針(第4-4-(4))と同様の記載とするべき。」(事業者、団体6、学者2)
各界から満遍なく批判を受けているあたりにハレーションの大きさを感じざるを得ず、結局、公取委も「直接的には競争を減殺するおそれは小さい」という記述の後に、
「しかしながら、無効にされるべき権利が存続し、当該権利に係る技術の利用が制限されることから、公正競争阻害性を有するものとして不公正な取引方法に該当する場合もある(一般指定第13項)。」
「なお、ライセンシーが権利の有効性を争った場合に当該権利の対象となっている技術についてライセンス契約を解除する旨を定めることは、原則として不公正な取引方法に該当しない。」
と付け加えることを余儀なくされている。
学説上は、「不争義務はライセンシーの地位に付随する義務として当然に認められる」とする見解もあるところだし、このガイドラインにおいても、あえて「非係争義務」(グレー条項)と分けて規定されているのだから、元の記述のままでも良かったのではないか、と思うのであるが、このあたりは様々な力が働いたのかもしれない。