私的録音録画小委員会中間整理(案)

最近いろいろと話題になっている、文化審議会著作権分科会私的録音録画小委員会の中間整理(案)を覗いてみた*1


いろいろと突っ込みどころはあるのだが、一番ヒドイな・・・と思ったのが、統計データの使い方のいい加減さ。


例えば、「第2章 私的録音録画の現状について」という項で使われている「私的録音に関する実態調査」では、

平成9年 27.9%
平成13年 62.4%
平成17年 87.8%

と極めて高い伸びを示しているのだが、脚注を見ると

「ただし、同調査では、市場の状況を踏まえて各対象年度毎に「デジタル録音機器」に含む機器を広げているため、単純に比較はできない。」

と打たれており、「増加傾向で推移」というコメントの内実がどんなものなのか疑わせるような状況になっている。


また、同項における「デジタル録音の規模」という項目についても、「最近1年間におけるデジタル録音の回数」について、平成18年に約32.5回、という前年の3倍以上の結果がでているのだが、

「平成18年録音調査では過去調査と異なり調査対象にパソコン及びポータブルオーディオが加わっていることが原因と考えられ、単純な比較はできない」

とコメントしておきながら、

「最近の傾向としてはデジタル録音の平均回数は増えているといえると考えられる」

と繋げる趣旨がどうも良く分からない。


他にも、「デジタル録画の理由」について、

「18年録画調査ではデジタル録画のみが調査対象」

となったために、保存目的の録画の経験率が急増していることが示唆されているなど、法改正に合わせて数字が意図的に調整されたのではないか、と思わせるような不透明さに何とも言えない不快感を感じる。


そしてもっとヒドイのは、「第5章 違法サイトからの私的録音録画の現状について」という項で用いられている「ファイル交換ソフト利用実態調査」。


本文中にも、

「本調査は、インターネット上のウェブアンケートサイトによって行われているため、比較的利用頻度の高い利用者が回答していると考えられ、約5060.21万人(インターネット利用者数)という数値をそのまま使って算定すると過大な推定値が算出されると本委員会にて指摘があった。」

というくだりがあるし、

ファイル交換ソフトを利用したダウンロード数は、有料音楽配信によるダウンロード数を大きく上回るものと推測される。」

という結論にしても、音楽配信事業自体が過渡期にある(インターネットを通じた音楽配信が不十分なものにとどまっているがゆえに、ファイル交換ソフトを用いたサービスを利用しているとも考えられる)現在の数値を殊更に取り上げることにそんなに大きな意味があるとは思えない。


元々、法改正に際しての当事者たるレコ協やJASRACのデータを丸呑みする、というのが審議会の正しい在り方か、といわれれば、それは大いに疑問だろう。



おそらく、こういった“統計の罠”に関して、一部委員やウォッチャーの方々が以前から指摘していたこともあってか、当の中間報告(案)においても、この種のデータ比較の不確実性を脚注等で指摘している。


だが、いかに報告書中にエクスキューズを盛り込んでも、パッと見て目に留まるのは、調査データをそのままビジュアル化したグラフの方であり、多くの人の目に触れるのもそこだけに留まる恐れが強いことを考えると、ミスリードの懸念は免れない。


法改正の妥当性を検証する上で、最も重要な要素となる「立法事実」にこういった形で不透明感が残るのは残念なことだと思う。



なお、結論についてコメントすると、

◇違法録音録画物、違法サイトからの私的録音録画
→ 第30条の適用を除外することが適当とする意見が大勢
◇他人から借りた音楽CDからの私的録音
→ 第30条の適用範囲から除外することについては慎重な意見が大勢

というところまでは理解できるのだが、「契約モデルによる解決」として挙げられている、

◇適法配信事業者から入手した著作物等の録音録画物からの私的録音録画
→ 契約による解決に委ねる趣旨から第30条から除外するのが適法
◇レンタル店から借りた音楽CDからの私的録音、適法放送のうち有料放送からの私的録音録画
→現在私的録音録画の対価が徴収されておらず、今後契約により対価を徴収できる可能性も乏しいことから、第30条の適用範囲から除外することについては慎重な意見が大勢

という点に関しては、非常に分かりにくい(少なくとも一般の人向けの説明には窮する)のではないかと思う。


法的には「私的複製」が認められる領域においても、契約ないし複製を防ぐ技術的手段を用いることで、実質的に私的複製させないようにすることは可能だったはずで、このような類型をあえて第30条から除外する、という選択をする必要があったのか、疑問が残るところだ*2


その他、「補償の必要性について」、「補償措置の方法について」、「私的録音録画補償金制度のあり方について」と詳細な検討結果が公表されており、それぞれについて、考えさせられる論点がいくつか含まれているのだが、30条の適用範囲の見直し、という根本的な問題に比べ、単なる「設計事項」に留まっていることは否めないため、今日のところは割愛することとしたい*3

*1:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/020/07092807.htmからリンクが張られている。

*2:仮に第30条から除外されたとすると、いいかげんな配信事業者が契約上の術を講じるのを失念した場合(こういった事態は想定しにくい、といってしまえばそれまでなのだが)、利用者の側で「私的複製」して良いかどうか問い合わせる煩わしさを抱え込むことになりかねない。

*3:市中の議論が盛り上がってくれば、再度取り上げるかもしれない。