誰のための独禁法なのか?

前々から話題になっていた、独占禁止法改正に向けての公正取引委員会の基本方針が発表された。


プレスリリースの内容は、極めてシンプルなものであるが*1、単なる規制強化にとどまらず、訴訟法上の論点(不当表示に対する団体訴訟の導入、文書提出命令制度など)等、いろいろと渋い改正も見込まれるようであり、今後の展開が注目されるところだ。


そんな中、この見直しの方向に対する反対意見として、以下のようなものが伝えられている。


1つ目は「現状の審判制度を維持する」という方針を「公取委の一方的な権限強化」とみて批判する動き(日本経団連自民党司法制度調査会)、もう一つは、「課徴金の対象範囲を広げるべき」という声である。


このうち、後者については、

「課徴金の対象範囲にも異論が出ている。公取委が方針を説明した16日の自民党独禁法調査会では、自民党議員から「競争の制限状況に関係なく、不当廉売や優越的地位の乱用に課徴金を課すべきだ」といった声が相次いだ。背景には、独禁法改正を中小企業保護に使いたいという思惑がある」(日本経済新聞2007年10月17日付朝刊・第5面)

ということなのだが・・・。



本来公正な競争を促進すべき独占禁止法を「中小企業保護」に使おうとは、自民党も堕ちたものだ*2


竹島一彦公取委委員長は、インタビューの中で、

「競争への影響は大小様々であり、競争の制限状況にかかわらずすべての不当廉売などに機械的に課徴金を課すのは乱暴な議論だ。独禁法の役割は公正な競争の保護であり、事業者の保護は法の直接の目的ではない。」

と冷静に受け流しているが、そもそもこれまで、自民党の政策と歩調をあわせるかのように権限を強化し存在感をアピールしてきた今の公取委が、果たしてどこまで強く出られるのか、疑問を禁じえないところではある。


ヘタをすると、現状の審判制度維持と引換えに、上記のような改悪がなされる可能性もあるし、このあたりは目を離さずに見ておくべきだろう。



なお、もう一つの批判の的になっている公取委の審判制度自体は、特許庁を相手に日々仕事をこなしている知財業界の人間からみれば、そんなに違和感があるものではないのだが、それでも毎度毎度これだけ批判が出てくるのだから、制度よりもむしろ運用面に問題があるのかもしれない。


特許の査定とは異なり、独禁法の審決が企業活動に与える影響は破壊的なものがあるだけに、批判がやむことは当面ないのだろうが、審判制度を廃止しなくても、「実質的証拠法則」が適用される場合を限定するなど、被審人に対して納得感を与えられるシステムをとりさえすれば、問題は解決できるような気もするのであるが・・・。

*1:http://www.jftc.go.jp/pressrelease/07.october/07101601.pdf

*2:そこまでして人気取りがしたいか・・・、と嫌味の一つでも言いたくなる。

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