裁判員制度の行方

2009年の実施に向けていろいろと話題になっている裁判員制度であるが、法務省が辞退事由を拡大する政令案を公表した。


その中身は、

「妊娠や転居のほか「精神上、経済上の重大な不利益が生じる場合」という包括的規定を設け、裁判官が辞退の可否を弾力的に判断できるようにした。」(日本経済新聞2007年10月24日付第1面)

というものであり、記事によれば、

政令案に「精神上の不利益」が規定されたことで、裁判員候補者が「精神的負担に耐えられない」と申し出た場合、裁判官の判断で辞退が認められる可能性がある。」(同上)

ということである。


選ばれる側の一般市民に対して、「裁判員制度」が過度の負担を課すことを避ける、という点において一定の評価はしてよい中身だと思われるし、「思想・信条」を辞退理由に加えなかったことと合わせて*1、穏当な落としどころを模索する当局の意向が伝わってくる政令案だといえるだろう。


世のサラリーマンが、大手を振って仕事を離れられる絶好の機会にそうそう辞退を申し出るとは思えないし、逆に、既に行われているプレ裁判員選定などでは、しょうもない理由で辞退しても「OK」という話で通ってしまっているようだから、あえて政令に明記しなくても、当局が法の趣旨を忖度した柔軟な運用を行うことで、「裁判員が確保できない」という事態も、「無理やり裁判員をやらせることで、当人にとって避けがたい有形無形の損害が生じる」といった事態も、避けられるように思われるのだが、事前の予測可能性を確保するという意味では、あらかじめ政令で決めておくにこしたことはない。


その意味で、「包括的規定」に留まったとはいえ、「重大な不利益(の存在)」という一つの基準を明記したことには少なからぬ意義を見いだすことができるはずである。



もっとも、当の「裁判員制度」自体がどこまで人々に周知されているか、となると、何とも心許ない。


ここに来て、社内で勤務制度(休暇制度)上の対応に向けた協議や、管理職を中心とした社員向けに「裁判員制度」への理解を求めるための啓発活動等を行うようになってきているのだが、「裁判員制度」が始まることは皆知っていても、「重大事件を対象としていること」や、「一定の事由がないと辞退できないこと」、「審理で何日も拘束される可能性があること」など、制度の根幹ともいうべき内容について、社内での周知度が決して高いとはいえない、という実態を垣間見ると*2、残念ながら、新制度の施行後しばらくは、「そんなの聞いてねぇ・・・」的なリアクションがあちこちで出てくることも覚悟しなければならないように思われる。


2年も先に施行される法律を現段階でこれだけ熱心にPRしていること自体、通常の法律では考えられないことだから、当局を責めるのは気の毒なのであるが、できることなら、「市民が裁判に参加する」というイメージ部分の広報宣伝だけでなく、「裁判員」になる人々が、具体的に何をしなければならないのか(選ばれた場合に、日常生活にどのような影響が出るのか)ということも、より積極的にPRしてほしいものだと願っている*3



(補足)
表現等少し分かりにくいところもあったので一部加筆修正(10/27)。
内容自体は変えていないつもりである。

*1:裁判員候補者側の方でこれを理由に挙げることができるようになってしまうと、事実上「やりたい人だけがやる」という制度に陥ってしまうだろうから、この判断は妥当というべきだろう。

*2:しかも今やりとりをしている相手は、世の中の動き全般に対して関心の高い会社中枢部にいるスタッフである。

*3:一歩間違えれば、制度そのものの弱点を自らさらすことにもなりかねないだけに、どこまで本腰入れて取り組んでくれるのか、図りかねるところではあるが、ここは当局の良識に期待している。

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