新刊書籍紹介

以前、「「知」的ユウレイ屋敷」で言及されていたように*1、丸の内OAZOにある丸善の品揃えは素晴しい。


普通ならエスカレーターで上っていかないと辿り付けない法律書やビジネス書が、入ったフロアにちゃんと並べられていること自体画期的なのだが、決して広いとはいえないスペースに、メリハリ付けて並べられている法律書のチョイスを見ると、ある種の感動すら覚えるのであって、さすがは森濱田松本のお膝元だけある、と妙なところで感心したりもする。


そんな中、週末に物色した書籍をご紹介したい。


まずは柔らかいところから。


市場と法

市場と法


日経新聞三宅伸吾編集委員が近年の商事関係事件(村上ファンドライブドアといった刑事事件や敵対的TOB事件など)を素材に書かれたルポルタージュである。


「読み物」としての限界はあるだろうし、帯で「法化社会」という、日経新聞しか使わない(そして一向に普及する気配のはない)久保利タームを使用しているあたりは減点材料なのだが、一次資料が比較的豊富に盛り込まれていることもあって、思わず手が伸びた。


同様の書籍は今後も文庫、新書等で世に出されていくのだろうが、この種の話題には、どうしても“賞味期限”があるだけに、早めに押さえておくのが吉、というべきだろう。


知的財産権信託の解法

知的財産権信託の解法


これは、知財信託の第一人者である寺本振透弁護士が書かれた一冊。


タイトルだけ見ると、実務的なテクニック本のようにも思えるのだが、実際の内容は、寺本弁護士ご自身が「知財信託のスキームを行りあげていく上で引っかかっている論点について検討を加えた」という、単発論文集としての色彩が濃いものとなっている。


個人的には、「第1章」として収められている「大学教員の発明の権利処理と知的財産権信託」の章で、各大学の発明取扱規程を拾いつつ、比較検討して「予約承継制度」に内在する問題を抉り出しているくだりや、過去の通達での大学教員発明の取り扱いや、職務発明制度の本質に照らして現状の大学側の姿勢を鋭く批判するくだりなどは、なかなか読み応えがあるし、職務発明に関する論稿として価値の高いものだと思うのであるが、タイトルだけ見て、「知財信託を行う上でのテクニック」を紹介した本だと思って買った人にしてみれば、「あれ?」という気分になっても不思議ではない書籍というべきかもしれない*2


なお、現在の実務慣行に照らせば、特許法35条1項の解釈論はもう少し柔軟に考えても良い(職務発明と認められる範囲は広く取っても差し支えない)と思ったりもするのであるが、「なんとなく機関帰属」を前提として話を進めていた実務の甘さに警鐘を鳴らす意味で、寺本弁護士の見解に関係者が耳を傾ける必要は高い、といえるのではないだろうか。



そして、最後のおまけ・・・


有斐閣判例六法Professional [平成20年版]

有斐閣判例六法Professional [平成20年版]


第一印象としては、装丁がカッコいい(笑)。


条文と参照判例部分が別色になっており、かつ参照部分の見出し付けもしっかりなされているので、使いやすさの面でも評価できる。


とはいえ、かさばる上に、個人で買うには決して安くない代物だけに、果たしてどこまで顧客を掴めるのか、微妙なところではある*3


有斐閣の新戦略が効を奏するのかどうか、とりあえずは注目することにしたい。

*1:http://chiteki-yuurei.seesaa.net/archives/20071015-1.html

*2:こんなタイトルを付けた弘文堂の姿勢には少なからず疑問を抱く(笑)。

*3:企業ユーザーなら、会社で契約しているデータベースをうまく使えば法令から関連判例まで網羅できるし、紙ベースで法令を集めたければ中途半端な「判例六法」よりも「六法全書」を購入するだろう。かといって、一般の学習者が使うにはいろんな意味で“重過ぎる”ような気がしてならない。

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