著作権法パブコメ(後編)

前日のエントリーに引き続き、パブコメにかかった文化審議会著作権分科会関連の中間報告書を取り上げてみる。


こちらは、より激しいコメントが寄せられたであろう「私的録音録画補償金」に関するもの。


以前のエントリーでも示唆したように*1、本来価値中立的な視点から論じられるべき「著作権法30条の適用範囲の見直し」が“録録補償金とセットで”論じられていることによって、非常に分かりにくい内容になってしまったこの報告書に対しては、筆者自身も少なからず疑問を感じているところである。


補償金制度にも一定の効用を認める筆者の立場は、多くのネットユーザーの皆さんの立場とは異なるものと思われるが、これも一つの意見として、参考にしていただけるなら望外の幸いである。

文化審議会著作権分科会私的録音録画小委員会中間整理*2

この「中間整理」には、

1)「著作権法第30条の適用範囲の見直しについて」

と、

2)「私的録音録画補償金制度のあり方について」

という二つの大きな山がある。


そして、それぞれにおいて、

1−A)著作権法30条(私的複製)の適用範囲を狭める、ないし廃止
1−B)私的複製の範囲は現状維持

2−a)補償金制度の廃止
2−b)補償金制度の維持、対象拡大

という選択肢が本来考えられるところであった。


今回の報告書(中間整理)が分かりにくくなっているのは、あくまで「私的録音録画補償金制度」について検討する、という小委員会の性質上、「2」の帰趨に合わせて「1」の方向性を検討せざるを得なかった、という点にあると思われる。


報告書においては、2−a)の方向を目指す前提として、1−A)の方向性が所定であるかのように論じられているのだが、本来1)と2)は別の話なのであって、私的複製の範囲を維持しつつ(1−B)、補償金制度の廃止のみを目指す(2−a)という道もあったはずだ(そして、それが多くのエンドユーザーの希望だったはずだ)。


それができなかったのは、権利者団体等の反発があるためで、それゆえもう一つの利害関係者である電機メーカー等は、現実的な妥協策として、1−A)と2−b)の組み合わせを選び、それがこの報告書にも反映されたのだろう。


だが、少なくともこの報告書からは、そういったプロセスが伝わってこない。


上記のような問題点が端的に現れるのは、1)の検討結果、として挙げられている

「適法配信事業者から入手した著作物等の録音録画物からの私的録音録画」

に関する分析(108頁以下)で、録音録画態様から見れば、従来の「私的複製」の領域にとどめておいても差し支えない内容であるにもかかわらず、「違法録音録画物」と同様に第30条の適用範囲から除外する、という結論が出されているところで話がややこしくなっている。


同じ2−a)派であっても、コスト削減圧力に苦しむ電機メーカーとエンドユーザーでは優先順位付けが異なるのであって、何が何でも補償金を廃止したいメーカーとエンドユーザーとで、目指す方向性が異なるのはやむを得ないところだろう。


だが、筆者は、エンドユーザーの利益を第一に考えるなら、たとえ今回は補償金制度が温存されることになったとしても、まずは「1)の領域を維持する」ことこそが大事なのではなかったか、と考えている。


契約のオーバーライドによる二重取り(私的複製領域にある著作物の利用について対価を直接収受している、という問題)を問題視するのであれば、30条2項の但書として、「別途対価を得ている場合は適用しない」という一文を盛り込めば済む話であって、わざわざ30条の適用範囲から外す必要はなかった*3


にもかかわらず、今回補償金制度を縮小する前提として、30条の適用範囲から除外する、という方向性が示されたことで、今後、取引コストが大幅に増大する事態が生じることが懸念される*4


「許諾を得る」という行為の面倒くささに比べれば、金銭の支払いでカタが付く補償金なんてたいした問題ではない、というのが筆者の考えであり、今課されている補償金額だって、その機械一台で莫大な家庭内複製物を作り出していることを考えればたいした金額ではないし、それが権利者サイドの過度な要求を少しでも和らげる方向で機能するのであれば、“お布施”としての存在価値は十分にあるといえるのではないか、と思っている。


ゆえに、今回の改正の方向性は、「角を矯めて牛を殺す」ようなもののように思えてならないのである。




著作権法30条制定当時の経緯はともかく、個人のプライバシーが尊重される現代においては、これを「私的領域への不介入」を定めた規定と再定義することも決して不可能ではないはずで、今回の「中間整理」におけるような検討をする前に、もっと「私的複製」規定そのものの意味を深く検討すべきではなかったか。


ここはいったん著作権法30条の適用範囲の問題を切り離して法制問題小委員会に戻し、再度時間をかけて検討していただくことを望むものである。



(補足)
なお、上記エントリーはパブコメ風に書かれてはいるものの、実際に日の目を見たものではない。
「himagine_no9」氏の指摘のとおり、もう少し掘り下げどころはあると思うのではあるが、とりあえず今のところはこの辺りが限界なので、ご容赦いただければ幸いである。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20071009/1191886219#tb

*2:http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?ANKEN_TYPE=2&CLASSNAME=Pcm1080&btnDownload=yes&hdnSeqno=0000030142

*3:今のように機器購入時に一括して補償金を支払う方式だと、精算するのが困難なのは認めるにしても、それは徴収方法や配分方法といったテクニカルな問題として整理すれば足る話だと思われる。

*4:ユーザー側には利用に際して権利者の適法な許諾を得られているかどうかをいちいち確認する手間が生じるし、権利者側にとっても、無償でインターネット配信する場合等にいちいち適法な配信であることを明記しなければならない、という手間がかかることになる。