業務用ビデオテープの販売をめぐって欧州委員会から厳しいペナルティを食らってしまった“世界のソニー”。
そのプレスリリースがなかなかふるっている。
(http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/200711/07-131/index.html)
ソニー株式会社、Sony France SA、ならびにSony Europe Holding BVは本日(11月20日)、1999年から2002年の期間において、プロ用ビデオテープの欧州市場での販売において価格カルテルを行なっていたとして、欧州委員会より47.19 mil ユーロ (約76億円)の過料支払命令を受けました。ソニーは決定の通知書は受理しておりますが、決定書の全文を入手するに至っておりません。
ソニーは、グループをあげて法律・法令遵守の徹底を図っており、この度、欧州委員会より指摘されたように、欧州で少数の社員が関与したとされる行為があったことをまことに残念に考えております。今後、決定書の詳細を確認する必要がありますが、ソニーはこうした違反行為が欧州委員会により認定されたことを重く受けとめ、関係者の皆様にご心配、ご迷惑をお掛けしましたことを深くお詫び申し上げます。
この後に「ソニーは欧州の独占禁止法を含む全世界の競争法を遵守しております。」と続くだけに、なおさら上記の記載が際立っているのだが・・・
早い話がこれを
トカゲのしっぽ切り
といわずに何と言おうか。
指定暴力団や闇金融じゃあるまいし、今どき、真の意味での“組織ぐるみ”の企業犯罪をやっている会社なんて存在しないのであって、世間で叩かれている企業不祥事のほとんどは、「一部少数の社員」がルールを逸脱して行動した結果に過ぎない。
それでもそういった結果が、「会社の犯罪」として叩かれるのは、「会社」という組織が個々の人間の集合体に過ぎない以上は当然の話であり、それゆえ、会社は一人ひとりの社員に法令順守意識を浸透させ、「会社として」罪を犯さないように取り組んでいく必要が出てくるのである。
先日の日経のコラム(春秋)の表現を借りるまでもなく、ちょっと不祥事が出ただけでぺこぺこ頭を下げる日本企業の姿は、確かに美しいものとはいえないし、純然たる社員の個人犯罪についてまで会社が連帯して責任を負う必要などないと思う。
だが、今回の独禁法違反は、痴漢やプライベートでの飲酒運転とは次元が異なる、れっきとした会社の業務絡みの問題である。
それをあたかも他人事であるかのように、「まことに残念に考えております」と片付けるとは、天下のソニーもつくづく堕ちたものだといわざるを得ない。
「ソニーが調査を妨害したとする欧州委員会の主張に関しては、当方に不適切で反省すべき点もあったと考えますが、欧州委員会の調査に実質的な影響を及ぼしていないと認識しております。」
と思うのであれば、「会社として」堂々と主張すればよい話だ。
だが、関与したのが仮に「少数の社員」であったとしても、それをあたかも「個人」の問題であるかのようにすり替えることは許されない。
更に言えば、今回あたかも「少数の社員」の問題であるかのような“すり替え”を図ったことで、
という台詞がかえって説得力を失っていることに、彼らは気付いているのだろうか?
このような“広報戦略”が、今後舞台が米国に移った時に経営者個人に重い刑事罰が降りかかることを防ぐためなのか、それとも、かの会社の“隣は何をするものぞ”的社風のあらわれなのか、はわからないが、わが国の危機管理法務の教科書に照らすなら、このプレスリリースの内容は、「赤点」に限りなく近いものといわざるを得ないだろう。
違法行為を行った社員が、どんなに跳ねっかえりのならず者だったとしても、それが会社の業務として行われた行為である限り、社員個人にかかる責任をいかにして「会社の責任」に置き換えるか(そして組織の力で会社が受けるダメージを最小限のものに食い止めるか)、を考えるのが、企業法務部門にある者の責務だと筆者は考える。
そして、“しっぽ切り”は、会社が株主や他のステークホルダーとの関係で、ダメージを背負いきれなくなった場合の最後の非常手段として残しておかなければならないものではないのだろうか。
少なくとも筆者は、会社のためにやったであろう行為を、「まことに残念」の一言で片付けてしまうような会社で働きたいとは思わない・・・。