2007年の知財関連判決・補遺

これまでのエントリーで取り上げられなかった2007年(一部昨年のものもあり)の裁判例をいくつか取り上げてみたい。


・・・といっても、取りこぼした事例を全部紹介する余裕はないので、既に取り上げた事件のうち、控訴審レベルでの判断をフォローアップできなかったものについて、ここでご紹介することにしたいと思う。

知財高判平成19年1月30日(H18(ネ)第10026号)*1

※「ポケモン商標侵害事件」の控訴審判決*2


原審で敗訴したシール業者が過失の有無等について争ったほか、同じく敗訴した小売業者(大創産業)も損害額の算定等をめぐって争ったのだが、いずれも裁判所の受け容れるところとはなっていない(結論:控訴棄却)。


個人的には小売業者の過失の有無についても、もう少し頑張って争って欲しかったところなのであるが・・・*3

知財高判平成19年9月27日(H18(ネ)第10070号)*4

※「極真会館商標移転事件」の控訴審判決*5


これは、財団法人極真奨学会(原告)と現在の極真会館「館長」M氏(被告)との間で争われていた事件なのだが、原審では一部認められていた原告側の主張が、控訴審では完全に否定されることになってしまった。(結論:一部変更、請求棄却)


原審は、被告側が自らの名義で出願登録した商標については、移転すべきことを求めなかったものの、元々原告名義で保有されていた商標(現在は被告名義)については「譲渡証書の作成が真正に行われたとは認められない」として、原告への移転を求めていたのだが、控訴審では、譲渡当時の経緯から、

「本件各譲渡証書(証拠略)は、結局、真正に成立したものと認められる」

として、原審原告側の主張を退けている。


元々、“お家争い”の一環としての争訟だけに、裁判所としても必要以上の介入は避けるべき(少なくとも現時点での権利関係をいじるべきではない)、と考えたのかもしれない。

知財高判平成19年9月27日(H18(ネ)第10032号)*6

日本マクドナルドフランチャイズ契約をめぐる訴訟の控訴審*7


元々原審も本訴、反訴あい乱れて結構分かりにくい事件だったのだが、控訴審で「訴えの交換的変更」がなされたことで、なおさら分かりにくくなってしまった。


被告会社(フランチャイジー)側の言い分は、高額(2億1461万6052円)の「無形固定資産」(いわゆるのれん代)相当額を支払った上に、フランチャイズ契約を解除されたのではたまらん!(だから不当利得を返還せよ)


といったものに集約されるように思われるが、個人との取引であればともかく、事業者同士の取引で、のれん代相当額を買い取らせるスキームは決して珍しくないし(ゆえに公序良俗違反という批判は難しいし)、契約終了後に買い戻す義務がないことも契約条項に明記されているのだから、フランチャイジー側に勝機はなかったように思われる。(結論:被告側の新請求棄却)

阪高判平成19年10月2日(H19(ネ)第713号ほか)*8

※「ピーターラビット著作権表示事件」の控訴審*9


個人的には注目していた訴訟だったのだが、短期間で結審となったようで、結論としてもあっさりと原告・被告双方の控訴を棄却している。


強いて注目すべき点を挙げるとすれば、原審で、不競法2条1項13号該当性について、「需要者の選択の基準となるのは、その絵柄そのものの美しさや芸術性の高さ等によるのであって、その絵柄が著作権の保護を受ける著作物であるか否かは購入の決定基準になるわけではない」とあっさり原告の主張を退けていたのに対し、控訴審では、

「タオルの種類、性格等によっては当該タオルの絵柄そのものが選択基準となる場合もあり、当該タオルの種類、性格の如何により、当該絵柄が著作権の保護を受ける著作物であるか否かが選択基準となることも生じ、要は具体的個々の商品につき個々に結論が異なる可能性があるということになる」(16頁)

と、原告(控訴人)側の主張を一応受け止めてみたことくらいだろうか。


もっとも、結論としては、具体的な商品について主張・立証していない、原告の主張を退けているのだが・・・。

阪高判平成19年10月11日(H18(ネ)第2387号)*10

※「正露丸類似商品等表示差止請求事件」の控訴審判決*11


正露丸」の商品等表示性が否定された原審判決を受けて、双方のより激しい主張が展開された本件であるが、結局は控訴が棄却されている。


控訴人(原告)側は、追加的に様々なアンケート等の結果を提出しているのだが、「いわゆるテフロン調査について」の項で裁判所が指摘しているように、「「正露丸」が「ブランド」か「一般名称」か」という質問を行うに際して、「ブランド」=「カローラ」「クラウン」、「一般名称」=「自動車」という(決して間違いではないが)極端な例示をするなど、本件にふさわしい調査方法に基づく結果を提示できなかったことで、報われない結果となってしまったのであろう。


控訴審で付加された説示として、

「普通名称の商品等出所表示への転換を認めるに当たっては、例えば、同業他社が消滅し、当該特定の者のみが当該名称を使用して当該商品ないしサービスを提供するような事態が継続し、あるいは、何らかの事情により当該商品ないしサービスが一旦、全く提供されなくなり、一時、人々の脳裏から当該名称が消え去った後、当該特定の者が当該名称を自己の商品等表示(商標)として当該商品ないしサービスの提供を再開するなどの事態が生じ、当該名称が当該特定の者の商品等表示(商標)と認識されるようになったこと等を要するというべきである」(30-31頁)

というのもあるが、「脳裏から消え去る」とはよっぽどのことであり(笑)、この規範による限り、正露丸が救済されることは永遠にない、というほかない。

阪高判平成19年12月4日(H19(ネ)第2261号)*12

※飲食店舗外観類似事件の控訴審判決*13


これも個人的には注目していた事件だったのだが、結局は原審に引き続き、店舗外観の商標等表示性を主張した原告(控訴人)の主張を退ける穏当な結論になった。

「店舗外観全体の類否を検討するに、両者が類似するというためには少なくとも、特徴的ないし主要な構成部分が同一であるか著しく類似しており、その結果、飲食店の利用者たる需要者において、当該店舗の営業主体が同一であるとの誤認混同を生じさせる客観的なおそれがあることを要すると解すべきであるところ、双方の店舗外観において最も特徴がありかつ主要な構成要素として需要者の目を惹くのは、店舗看板とポール看板というべきであるが、いずれも目立つように設置された両看板に記載された内容(控訴人表示又は被控訴人表示)が類似しないことなどにより類似せず(前記(1)参照)、かかる相違点が、控訴人店舗外観及び被控訴人店舗外観の全体の印象、雰囲気等に及ぼす影響はそもそも大きいというべきである。」(15頁)

という規範自体は正当だと思われるだけに、今後は、もっと際どい事例の争いについて、どのような判断が示されるのか注目されるところであろう。

阪高裁平成19年12月20日(H19(ネ)第733号)*14

※「東京データキャリ」派遣社員引き抜き事件の控訴審判決*15


年の初めに地裁判決が出されたこの事件、年の暮れに控訴審判決にまで至ったのだが、短期間の審理で終結した事件にしては珍しく結論が覆っている。


元々、営業秘密不正使用と不法行為の2つの争点のうち、要件を満たすのが苦しい前者はともかく、後者については原審も相当な疑いの眼を持ってみていたから、原告(控訴人)側でが的確な主張・立証を行えば覆る余地はあったのであるが、控訴審では、控訴人側がこの点について成功したといえる*16


もっとも、認容された額は請求額の約10分の1に留まっており(約267万円)、実利があったか、といえば疑問も残るところなのであるが。


以上、駆け足ではあるが、拾えなかった裁判例の一部をざっと紹介した。


選に漏れてしまったものについては、また、おいおい機を見てご紹介することにしたい。

*1:第4部・塚原朋一裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070131143409.pdf

*2:原審については、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060225/1140844023#tb参照。

*3:フランチャイズ店との共同不法行為が成立するか否かについては争っているが、直営店舗での販売について不法行為が成立すること自体は争う余地がないと判断したのだろうか。

*4:第4部・田中信義裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071011113916.pdf

*5:原審については、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060809/1155233553#tb参照。

*6:第4部・田中信義裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071001093807.pdf

*7:原審については、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060227/1141096963#tbを参照。

*8:第8部・若林諒裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071003092524.pdf

*9:原審については、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20070215/1174835140#tbを参照。

*10:第8部・若林諒裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071012164641.pdf

*11:原審については、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060807/1154993106#tbを参照。

*12:第8部・若林諒裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071205101515.pdf

*13:原審については、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20070806/1186332281#tbを参照。

*14:第8部・若林諒裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071227144436.pdf

*15:原審については、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20070211/1171174392#tbを参照。

*16:被控訴人らが控訴人の顧客からの契約をとることができたのは、被控訴人自身が控訴人在職中に故意又は重過失によって生じさせた混乱に乗じたためであり、信義則に違反する態様だ、として不法行為の成立を認めている。