とにかく強かった、流通経済大柏イレブンの独壇場で幕を閉じた今年の高校サッカー。
準々決勝で、難敵・東福岡をPK戦の末退けてからは、憑き物が落ちたように、準決勝(対津工6-0)、決勝(対藤枝東4-0)とゴールラッシュで堂々の圧勝、見事な二冠制覇となった。
立役者はもちろん、最後の2試合でチームの10得点中6点をたたき出した、小さなFW、大前元紀選手(これで3大大会全てで得点王に輝く快挙)だが、GKの安定感といい、ポジションを問わない早い寄せと攻守の切り替えの早さといい、チームとしての完成度も極めて高い。
組み合わせの運に恵まれた(特に最後の二試合)のは確かだとしても、前半手堅く1-0をキープして折り返し、後半立ち上がりから相手の隙を付いて加点、立て続けに追加点を決めて戦意喪失させる、というゲーム運びには、超高校級の余裕すら感じられ、文句の付けようがない優勝だったといえるだろう。
名将・本田裕一郎監督が60歳にして、この大会を初制覇、というのは全くもって意外な話で、同じ県内で市船の“青い壁”に阻まれ続ける、という不運さえなければ、とっくに2,3度は優勝監督になっていても不思議ではなかったのだろうが、これで名実ともに、全国高校サッカーの歴史にも名が刻まれることになった。
元・地元のサッカー少年としては、何とも嬉しい限りである。
で、大前選手に話を戻すと、名門・町田JFC出身ならではの高いテクニックもさることながら(決勝戦の2点目のダイレクトボレーの美しさや如何に)、特筆すべきは、自分の足元に転がってきたボールは確実に枠に飛ばす、という基本的技術の正確性と勝負強さ(何せあれだけ注目されながら、最後の2試合だけで得点王を手繰り寄せてしまうのだからただ者ではない)。
これまでも小柄でスピードのあるFW、というのは高校レベルだと結構活躍していたのだが、あれだけの器用さがあって、かつ得点感覚もある小柄なFW、というのは結構珍しいタイプのように思われ(MFならいても不思議ではないが)、今後が注目されるところである*1。
高校選手権で得点王に輝く選手の“優れた得点感覚”なんてものは、プロに行ってからの環境の変化(高校時代と違って周りが自分だけにボールを合わせてくれるわけではない)と、DF陣の厳しいプレッシャーの前では、あてにならない、というのが、ここ数年よく言われていることで、実際選手権の頃の輝きを取り戻せないままフェイドアウトしていく選手は少なくないのだが、大前選手の場合、テクニックには明らかに秀でたものがある、と思われるだけに、異色のFWとして、着実にキャリアを積み重ねていってくれることをただ願うのみである。