社保庁の憂鬱

実務的なインパクトはそれなりに大きいと覚悟しなければならないニュースがひとつ。

社会保険庁社会保険事務所内で職員が利用するLAN(構内情報通信網)に記事を無断で掲載され著作権を侵害されたとして、ジャーナリストの岩瀬達哉氏が国に約370万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁(設楽隆一裁判長)は26日、著作権侵害を認め、国に42万円の支払いを命じた。」
日本経済新聞2008年2月27日付朝刊・第42面)

少なくとも法の原則からすれば、「社内LANに第三者の著作物を掲載すること」が著作権侵害にあたるのは疑いないわけで*1、「さすが社保庁、今さらこんな間抜けな・・・」と思う方もいるかもしれない。


だが、実際に新聞・雑誌記事のクリッピングで訴訟になったようなケースは、今回の記事が出るまで寡聞にして知らなかったし、それゆえ、今でも独自のクリッピングサービスを社内で行っている会社は決して少なくないはずだ。


また、本件ではさらに以下のような事情もある。

「掲載されたのは、岩瀬氏が2007年3-4月に週刊誌に掲載した「まやかしの社保庁改革を撃つ」と題した4本の記事。」

社外からの批判に耳を貸さないような組織が多い中、あえて自らの組織を批判する記事を社内LANに掲載し職員に自覚を迫る(ここまで好意的に解釈して良いかどうかは読者のご判断にお任せするが)社保庁の姿勢が間違っているとは筆者は思わない。


・・・にもかかわらず、「著作権」の前には、「違法」となることに変わりはなかったわけで、現実の厳しさを改めて見せ付けた事例といえる。


ちなみに、記事によると、社保庁(国)側は、「行政目的の複製を認めた著作権の規定」を根拠に反論を行ったようだが、

第42条 著作物は、裁判手続のために必要と認められる場合及び立法又は行政の目的のために内部資料として必要と認められる場合には、その必要と認められる限度において、複製することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

は、元々「複製権」の権利制限に関する規定である上に、LANで不特定多数の職員が閲覧できるということになれば、「当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない」という但書規定への該当性も問題になってしまう。


今回の判決で、後者の問題について、何らかの解釈が示されているのかも、(応用範囲も広いと思われるだけに)興味深いところだが、いずれにしても実務サイドにとっては楽な判決ではないのは間違いなさそうである。

*1:加えて、仮に日本複写権センター等と包括的な利用許諾契約を結んでいたとしても、LANでの利用は許諾範囲外とされる可能性が高い。

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