日銀総裁・副総裁人事をめぐって大荒れの国会。
ついに参議院で武藤総裁、伊藤副総裁の人事案が否決されたことで、明日以降の動きが注目されるところではある。
どうみても背景には政治的思惑があるにもかかわらず、“日銀の独立性云々”などというもっともらしい理屈をこね続けている民主党(及びその他野党)はもはやどうしようもないと思うが、かといって、「協議で何とか・・・」と非生産的な戦略に終始している与党もいただけない。
そもそも副総裁就任の時点から、民主党は武藤氏に「No!」という意思を表明していたのであって(少なくとも行動としては)、総裁就任に際しても同じ戦略を取るだけの口実は十分に整っていたのだから、昨夏に国会の構成が変わった時点で、何らかのリスク回避策を用意していても良かったのではないかと思うのだが、これまでの動きを見る限り、そんな“隠し玉”が用意されているようにも思えない。
このまま行くと、状況が何も変わらないまま、福井現総裁の任期切れを迎えそうな雰囲気であるが、この状況を打開するため、自分の浅知恵で少し考えてみた。
今もめている日銀総裁をはじめ、日銀役員の地位について定めているのが日銀法なのであるが、そこには↓のような条項が置かれている*1。
(役員の任命)
第23条 総裁及び副総裁は、両議院の同意を得て、内閣が任命する。
2 審議委員は、経済又は金融に関して高い識見を有する者その他の学識経験のある者のうちから、両議院の同意を得て、内閣が任命する。
3 監事は、内閣が任命する。
4 理事及び参与は、委員会の推薦に基づいて、財務大臣が任命する。
5 総裁、副総裁又は審議委員の任期が満了し、又は欠員が生じた場合において、国会の閉会又は衆議院の解散のために両議院の同意を得ることができないときは、内閣は、第1項及び第2項の規定にかかわらず、総裁、副総裁又は審議委員を任命することができる。
6 前項の場合においては、任命後最初の国会において両議院の事後の承認を得なければならない。この場合において、両議院の事後の承認が得られないときは、内閣は、直ちにその総裁、副総裁又は審議委員を解任しなければならない。
(役員の職務及び権限)
第22条 総裁は、日本銀行を代表し、委員会の定めるところに従い、日本銀行の業務を総理する。
2 副総裁は、総裁の定めるところにより、日本銀行を代表し、総裁を補佐して日本銀行の業務を掌理し、総裁に事故があるときはその職務を代理し、総裁が欠員のときはその職務を行う。
3 監事は、日本銀行の業務を監査する。
4 監事は、監査の結果に基づき必要があると認めるときは、財務大臣、内閣総理大臣又は委員会に意見を提出することができる。
5 理事は、総裁の定めるところにより、総裁及び副総裁を補佐して日本銀行の業務を掌理し、総裁及び副総裁に事故があるときは総裁の職務を代理し、総裁及び副総裁が欠員のときは総裁の職務を行う。
6 参与は、日本銀行の業務運営に関する重要事項について、委員会の諮問に応じ、又は必要があると認めるときは、委員会に意見を述べることができる。
今の問題は、言うまでもなく、第23条1項の「両議院の同意」が得られない、という点にある。
それゆえ、現在(1)「協議による妥協」、(2)「人事案の差し替え」という2つの策が論じられているのであるが、筆者が太線を付した他の規定と合わせ読むと、両議院の同意が得られない場合に、内閣が採りうる手段は他にもあるように思われる。
例えば、
(3)福井総裁の任期切れ直前に衆議院を解散する。
→ これによって参議院も閉会するため、内閣は23条5項に基づき、「任期が満了し・・た場合において、国会の閉会又は衆議院の解散のために両議院の同意を得ることができないとき」にあたるとして、従来の人事案に基づき総裁・副総裁を任命できる。
→ この場合、23条6項に基づき再開後の国会で両議院の承認を受ける必要があるが、衆議院選挙で与党が現在の人事案の支持を訴え多数を確保した場合には、参議院といえども内閣の人事案に露骨に不同意との判断を下すことはできないはず(願望)。
などというやり方が考えられる。
これについては、似たような事案として、郵政民営化法案が争点になっていた2005年の衆議院解散(及び選挙後の法案成立過程)が記憶に新しいところであろう。
もちろん、日銀総裁人事が、選挙の焦点となりうるほどのインパクトを持つ話題になることは考えにくいし(仮に今解散したら道路特定財源(ガソリン税)問題の方が、争点としては大きくなるだろう)、現在驚異の議席数を保有する与党側が選挙後議席数を減らすことは避けられない以上、参議院の多数派が、郵政民営化時の造反議員のように、あっさりと「衆議院の意思」に従うとも考えにくい。
何よりも、衆議院の優越が認められる法律案の議決と異なり、同意人事はあくまで「両議院の」同意によらねばならない以上、現行法の規定の下では、参議院が反対すれば、衆議院の構成がどうなろうが話が前に進まない、という構造的な問題があり、それは選挙を経たくらいでは何ら変わるものではない・・・*2。
となれば、現内閣には、いっそのこと、
(4)「日本銀行法」(日銀法)を改正して、「両議院の同意」要件自体を取り払う(あるいは両議院の意思が相反したときの調整規定として、衆議院の優越に関する規定を盛り込む)。衆議院で可決されてから再議決ができるようになるまで最大60日の空白が生じうることになるが*3、その間は白川・新副総裁の職務代行(22条2項)でしのいでおけば、少なくともサミットには間に合う(苦笑)。
といった手段を取ってはどうか、と提案したくもなるものだ。
両議院の同意要件が盛り込まれている趣旨を考えれば、これは一種の「暴挙」かもしれないし、人事上の空白が生まれうる、という点を考えると、結局は根本的な問題の解決にはなっていない、という批判もあるだろうが、このままズルズルと野党の党利党略に振り回されて世界に恥を晒すよりは、少々の空白が生じても、確実に次期総裁が選任されるメドを立てておく方が、まだマシなのではないかと思えてしまうのも事実。
いずれにせよ、生産性のないバカバカしい議論は、さっさと終わりにしてもらいたいものだと思う。