インサイダー規制の不思議

最近、インサイダー取引に対する監視の目が随分厳しくなってきているなぁ、と思っていたら、とうとう野村證券M&A部門在籍者まで摘発されてしまったようだ(22日報道、その後23日になって逮捕)。


内部者取引規制の経済合理性云々が取りざたされていたのははるか昔の話で、今となってはペナルティを課すことに疑義を唱える声もそんなに聞こえては来ないから、なおさら証券取引等監視委の動きも積極的になっているのだろう。


もっとも、筆者にはかねてから素朴な疑問もある。

「次の各号に掲げる者(以下この条において「会社関係者」という。)であつて、上場会社等に係る業務等に関する重要事実(当該上場会社等の子会社に係る会社関係者(当該上場会社等に係る会社関係者に該当する者を除く。)については、当該子会社の業務等に関する重要事実であつて、次項第五号から第八号までに規定するものに限る。以下同じ。)を当該各号に定めるところにより知つたものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け又はデリバティブ取引(以下この条において「売買等」という。)をしてはならない。」

と、金商法の条文(166条)上は、重要事実を知って取引をすれば、たとえそれによって利益が出ようが損失を被ろうが規制に引っかかるわけだが、現実に、「重要事実」に当たりうる事実を知ったとして、それで利益を上げられる人間が世の中にどれほどいるのだろうか。


報道されている事例では、概して内部者取引の事実とともに、「摘発された会社関係者が多額の利益を上げていた」ということにも言及されているから、“インサイダー取引は儲かるものだ”、“他の投資家を出し抜くなんて卑怯ではないか”という見方が一般的なようである。


だが、株式相場は生き物、株取引は“心理ゲーム”(バクチと言うよりは少し言葉はきれいだろう)以外の何ものでもない。


そして、経営に影響を与えるような重大な情報が出てきたときに、株価が上に撥ねるか、下に撥ねるか、というのも常に予測できるわけではない。


TOB案件で、買収プレミアムが数十パーセントも付いているような被買収会社の株や、黒字予想が一転大幅赤字になるような極端な事例はともかく、中途半端な情報であれば、一見明るい情報が下げ要因になったり、その逆のパターンで上げ要因になったりもする。


アナリストは後から「市場では織り込み済みだった」とか、「(大幅増益でも)予測されたほどではなかったので失望感が強い」だとか適当な講釈をするが、結局のところ、「事実」を市場がどう受け止めるのかは、蓋を開けてみないと分からないことが多いのである。


おそらく、内部者取引に手を出した人(素人でも玄人でも)の中には、重要事実を入手して、これ幸いと売買注文をしたものの、蓋を開けたら予想に反した値動きをされてしまい、大損した人も決して少なくはないはずだ。


にもかかわらず、処罰されるのは、儲けを上げた人だけ、というのが現状の運用であるように思える。


重要事実を「重要事実」として理解できる人自体、市場参加者の中ではごく一部の層に限られるはずで、今回の野村證券社員とその仲間2名が取引で多額の利益を上げられたのは、こっそり得ていた情報の良質さもさることながら、その後の反応まで予測する分析力の確かさもあったが故だろう。


市場の公正さを揺るがす取引として、このような取引にペナルティを課すのは理解できるにしても、それをやるのであれば、儲けを上げた人間だけでなく、大損した人間も槍玉に挙げないと不公平だよなぁ・・・と思ってしまうのは筆者だけだろうか(現実問題として、そういうアホな投資家にまで網をかけるのが困難なのは分かるにしても・・・)。