時代は動くのか?

とうとう沸点を越えた感じがする、私的録音録画補償金問題。

文化庁は27日、29日に開く予定だった文化審議会著作権分科会の小委員会の開催を取りやめることを決めた。私的な録画・録音に対する著作権料(補償金)をハードディスク内蔵録画機器などのデジタル機器に上乗せするかどうかを巡り、賛成する著作権者側と反対するメーカー側の対立が解けず、開いても議論をまとめられないと判断した。」(日本経済新聞2008年5月27日付夕刊・第18面)

国会の何とか委員会ならともかく、この種の会合がこういった理由で流れるのは極めて珍しいし、「ダビング10」の本来の開始予定日を直前に控えた時期だけに、何ともきな臭い香りが漂ってくる。


記事を見ると、「著作権者」と「メーカー」という両横綱が勝手に土俵際で睨みあっていて、しょうがないから行司が泣く泣くノーコンテストを宣言・・・みたいな印象を受けるが、ところがどっこい。


今月8日に開催された、文化審議会著作権分科会の私的録音録画小委員会(平成20年度第2回)での配付資料(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/020/08051202.htm)を見ると、中立なジャッジなんぞはどこにもいない、ということが良く分かる。


例えば、「著作権保護技術と補償金制度について(案)」(資料2)というペーパーを見ると、

著作権保護技術の施された著作物の私的録音録画に関する権利者が被る経済的不利益については、例えば権利者の要請による技術については、原則として補償の必要性がないことは、関係者に異論はないと考えられる。」

と、変な留保をつけた上で、

「このダビング10の結論にいたる検討経緯は、同審議会の第4次中間答申に関係者の意見も含め詳しく記述されており、議事録も公開されているが、権利者側は、COG一定の制限という考え方そのものについては支持しているものの、特に回数については、権利者の要請により策定されたものといえないことは明らかである。」

という結論に持っていかれているし*1、「私的録音録画補償金制度の具体的制度設計について(案)」(資料3)というペーパーを見ると、HDD内蔵型機器はもちろん、

ウ 録音録画機能を含めて複数の機能がある機器でどの機能が主要な機能といえないもの(例 現在のパソコン)
 現状では、録音録画を主たる用途としている機器とはいえないことから対象とすべきでない。
 ただし、いわゆるパソコンと総称される機器については、今後様々な仕様の機器が開発され普及する可能性があるところから、仮にパソコンといわれるものであっても、ウに該当しない機器が開発・普及するような場合は、改めて考え直す必要があると考える。なお、このことはエ*2についても同様である。

と、将来の一部のPCへの課金まで睨んでいるかのような事務局試案が提示されている。


これでメーカー側がすんなりと妥協するはずもなかろうに・・・。


以前のエントリーでも触れたように、自分は、多少配分や徴収根拠が不透明でも、一定の対価を払うことによってユーザーの利便性を確保する、という意味では、「私的録音録画補償金」を残す、というのもあながち悪い選択肢ではないと思っていたのだが、これだけアンフェアなレフェリーの下で、「補償金対象拡大」という結論が導かれたのでは、後々の議論に悪影響が出かねない。


一部では

「五輪商戦に響くから、さっさと妥協したら・・・?」

と、メーカー側を懐柔しようとする囁きもでてきているようだが、個人的には、関係者が思うほど、「ダビング10」の問題が録画機器の売上げに与える影響が大きいとは思えない。


綺麗な画面でオリンピックを見たければ、消費者は「地デジ対応の大画面テレビを買って、タイムシフト目的の録画のためにセットでレコーダーを買う」だろうし、そういう欲求がなければ買わない(裏返せば「何度もダビングしたいがためにレコーダーを買いに行く」なんて消費者はそうそういない)、それだけの話である。



そうこうしている間にも、知財戦略本部では着々と「フェアユース」規定の提案準備が進んでいる(と言われている)今日この頃。メーカー側には、安易に妥協することなく、毅然とした対応で筋を通していただきたいものだと思う。


この2008年という年が、著作権の世界における“ターニングポイント”だった、と言われる日が、何年後かにやって来ることを願って・・・*3

*1:そもそも家庭内複製は法的にはフリー、という大原則がある以上(著作権法30条1項)、それに制限を課すこと自体が、「権利者の要請による」ものでなくて一体何なのだ、と失笑してしまう。

*2:注:ペーパーによると、「録音録画機能を附属機能として組み込んだ機器(例えば留守番電話、携帯電話、録音機能付きカーナビゲーション) 」

*3:ある意味ユーザーにとって「悪いターニングポイント」になってしまう可能性もあるのだが、今は考えないことにしよう(苦笑)。