「知的財産推進計画2008」とサミット

いよいよ洞爺湖でサミットが始まろうとしている。


連日の過剰警備のおかげで、東京にいながらにしてサミットの雰囲気を味わえるのは有難い限り(皮肉)なのだが、そんな中、知的財産に関する話題も議題にあがるようで。

「日米欧など主要8ヶ国(G8)は、7日からの主要国首脳会議(洞爺湖サミット)で、偽ブランド品などの流通防止に向けた国際条約の年内制定を目指すことで合意する。首脳文書の経済分野に盛り込まれる見通しだ。」(日本経済新聞2008年7月5日付夕刊・第1面)

先日公表された「知的財産推進計画2008(速報版)」*1でも、「国際市場環境を整備する」、「国際的な知的財産制度のハーモナイゼーションを主導する」という2つの重点項目の中で、

模倣品・海賊版拡散防止条約(仮称)」の早期実現を目指す」

という目標が繰り返し明記されているから、議長国の威信をかけてでもここはまとめなければ、という思いもあるのだろう。



もっとも、今年の「知的財産推進計画」をご覧になった方は既にお気付きだと思うが、今、知的財産政策は、これまでの権利保護・権利強化一辺倒の流れから、「必要な権利は保護しつつ、過剰な権利行使にはブレーキをかける」という方向に向かいつつある。


例えば、「知的財産の円滑・公正な利用を促進する」(67頁)という項目の中の、

(1)濫用的な権利行使に対応する
知財権の権利行使の仕方によっては、産業界における自由な競争に悪影響を与え、公共の利益に反する場合等があるため、2008年度から、正当な権利行使を尊重することを大前提としつつ、民法の権利濫用の法理や米国最高裁判決(eBay 判決)等を考慮し、差止請求や損害賠償請求等の適切な権利行使の在り方について検討を行い、ガイドラインの作成等の必要な措置を講ずる。(経済産業省
(2)不当な権利行使を取り締まる
知財権の濫用による不公正な取引方法等の独占禁止法違反について、必要な審査専門官の確保などにより知財の専門チームである「知的財産タスクフォース」の体制整備を図り、重点的に取締りを行う。(公正取引委員会

といったあたりは典型的だ。


また、「コモンズの取組を促進する」(74頁)という項目での

2008年度から、各企業等が保有する知財権について、相互運用性の確保等によるイノベーション促進やコンテンツ・環境技術等の相互利用の促進を図るため、既存の知財権制度の利用を前提に、パテント・コモンズ、クリエイティブ・コモンズ等の自主的な取組を促す。(文部科学省経済産業省

のような考え方も、あちこちに散りばめられている。


こういった流れは、別に我が国独自の発想ではなくて、先進国における最近の発想の展開を素直に受け止めたものといえるのだろうが、これまでのような、“あちこちの著作権者団体のロビー活動をまとめた”だけの「推進計画」を見慣れていた者からすれば、相当なインパクトはある。


もちろん、今までどおり「インターネットオークション上の模倣品・海賊版の取引を防止する」(57-58頁)とか、「インターネット上の海賊行為への対策を強化する」(58-59頁)といった項目は残っているし、上記の「模倣品・海賊版」条約もそのような取り組みの一つとして残されてはいるのだが、上に記したような流れからすれば、

昔の名前で出ています

的な感がするのもまた否めない(笑)。



なお、ついでだからご紹介しておくと、上記以外に筆者が注目している今年の推進計画項目は以下のとおりである。


これまで本ブログでご紹介しているトピックともだいぶ重なるが、一応挙げておくことにしたい。

◆ホログラム、動き、音等の新商標の導入を検討する(37頁)
商標制度の国際的な制度調和の観点から、産業界のニーズも踏まえて、現行商標法で保護の対象とされていないホログラム、動き、音等を保護対象とすることについて2008年度中に検討を行い、結論を得る。(経済産業省

◆審査基準を見直し、予見性を高める(39頁)
商標審査における商品又は役務の類否判断に用いられている現行の「類似商品・役務審査基準」を現在の取引の実情を反映したものとするように見直すために、既存の登録商標への影響等、審査基準の改訂に伴い生ずる問題への対応策について検討を行い、2008年度中に結論を得る。(経済産業省

◆審判の準司法手続としての信頼性を向上させる(41頁)
2)審判における特に高度な法解釈への対応や人証等に対する高度な事実認定能力の向上に資するため、2007年度末に新たに設置された知財分野の裁判官経験者等からなる「審判参与」の活用を2008年度から積極的に行う。
3)特許法第168条等に基づく裁判所との間の情報交換をより一層促進するなど、特許庁における無効審判の判断と裁判所における無効の判断との食い違いの防止に努める。
経済産業省

◆知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針の周知を図る(63頁)
2008年度において、企業が技術に係るライセンス契約を交渉・締結する際に、独占禁止法上の問題の有無について容易に判断できるよう、2007年9月に策定された「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」の周知・徹底を図る。(公正取引委員会

◆企業グループ内における国際的なライセンス活動を円滑化する(64頁)
1)企業グループ内における適切なライセンス活動を促進するため、企業に対し、海外子会社等にライセンスする知財(特許、商標、ノウハウ等)についての取引条件を明確にした契約の締結を促す。(経済産業省
2)2008年度において、企業が海外子会社等に対し知財のライセンス等を行う場合、移転価格税制を考慮し、当該知財に係るライセンス料等について「移転価格指針(事務運営指針)」や「参考事例集」等に基づく適正な独立企業間価格の算定を行い、当該価格による取引を行うよう促すとともに、適正な独立企業間価格について税務当局に事前確認する事前確認手続の周知を図り、企業等による利用を促進する。(財務省経済産業省

◆実施許諾の意思の登録制度の導入を検討する(65頁)
2008年度から、特許流通の活性化や未利用特許の有効活用を促進するため、特許権者が当該発明について第三者への実施許諾の意思がある旨を特許原簿等に登録できるライセンス・オブ・ライト(License of Right)制度の導入について検討を行い、必要に応じて制度整備を行う。(経済産業省

◆新しいビジネス展開に関わる法的課題を解決する(85-86頁)
(1)通信と放送の垣根を越えた新たなサービスへ対応する
通信・放送の法体系の見直しについては、コンテンツの生産・流通・消費を最大化する方向で検討を行い、2010年を目途に結論を得る。また、通信・放送の法体系の見直しの状況を踏まえ、新たなコンテンツの創作への寄与等を考慮しつつ、利用者からみたサービスの形態に応じた、権利関係の規定の見直しや著作隣接権の在り方の検討を2008年度から開始する。(総務省文部科学省経済産業省
(2)ネット検索サービス等に係る法的課題を解決する
次世代をリードする情報の検索・解析・信憑性検証技術の開発・国際標準化による先進的な事業の出現を促進するとともに、ネット検索サービスが円滑に展開されるよう2008年度中に法的措置を講ずる。また、利用者に応じて、適した商品等の情報を提供するサービスが円滑に提供できるよう、利用者のプライバシーを保護しつつ利用者に関する情報を安心・安全に収集・蓄積・活用するための方策等について検討を行い、2008年度中に一定の結論を得る。(総務省文部科学省経済産業省
(3)コンテンツ配信に伴うサーバー上の複製行為等に係る法的課題を解決する
コンテンツ配信の通信過程において端末やサーバー等で生じる一時的な蓄積について、通常の通信過程における機器の利用であって権利者の利益を不当に害しない場合は著作権法上権利を及ぼさない措置を導入するなど、一時的蓄積等に係る法的課題を解決するための検討を行い、2008年度中に法的措置を講ずる。(文部科学省
(4)研究開発における情報利用の円滑化に係る法的課題を解決する(再掲)
ネット等を活用して膨大な情報を収集・解析することにより高度情報化社会の基盤的技術となる画像・音声・言語・ウェブ解析技術等の研究開発が促進されること等を踏まえ、これらの科学技術によるイノベーションの創出に関連する研究開発については、権利者の利益を不当に害さない場合において、必要な範囲での著作物の複製や翻案等を行うことができるよう2008年度中に法的措置を講ずる。(文部科学省
(5)リバース・エンジニアリングに係る法的課題を解決する
革新的ソフトウェアの開発や情報セキュリティの確保に必要な範囲において、コンピュータ・ソフトウェアのリバース・エンジニアリングの過程で生じる複製・翻案を行うことができるよう2008年度中に法的措置を講ずる。(文部科学省


あと、ここから先は「ネタ」(笑)。

知財に強い弁護士の大幅な増員や資質の向上を図る(111頁)
1)法曹人口の大幅な増加が図られている中で、司法修習において地方裁判所知的財産権部や知財法律事務所によって提供される選択型実務修習プログラムに積極的に応募することなどにより、知財に強い弁護士が増加することを期待する。また、知的財産法を含む選択科目別の司法試験合格者数を調査するなど、知財に強い法曹人材の養成が適切に行われているか検証する。(法務省
2)2008年度から、知財に関する研修への参加や講義の受講等弁護士の自己研鑽を通じて、企業の経営・事業戦略をサポートするのに必要な知財実務に強い弁護士が増加することを期待する。また、弁護士が企業内で知財実務に直接携わることができるよう意識の改革や環境の整備を促す。(法務省、関係府省)

法科大学院における知的財産教育を推進する(118頁)
1)法科大学院の教員資格については、法学部の教育経験にとらわれず、実務経験を重視して、専任教員に関する審査を行う。(文部科学省
2)これまでの知財教育の内容をレビューしつつ、知財実務に重点を置いた教育を行うなど知的財産法関連の授業科目を一層充実させるといった法科大学院の自主的な取組を促す。(文部科学省
3)これまでに調査分析した法科大学院の入学者選抜状況を公表することにより、入学者選抜方針に基づく入学試験において理系出身者に配慮するといった法科大学院の自主的な取組を促す。(文部科学省

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html