続・復刻品における商標使用

昨年末に東京地裁で判決が出された、「CROWN」商標をめぐる商標使用権抹消登録、反訴請求事件。


事案の概要については、以前書いたエントリー*1を参照していただければ、と思うのであるが、もともと事案の筋が悪いことに加え、それに輪をかけて裁判所がもやもやさせるような判決を書いた・・・そんな印象を受ける事件であった。


どうやら紛争はまだ決着を見ていなかったようで、先月末に高裁判決が出されている。


首を傾げたくなるような解釈が完全に払拭されたわけではないが、地裁判決に比べれば少しはスッキリしたかも・・・という感じの判決といえようか。

知財高判平成20年7月23日(H20(ネ)第10018号)*2

控訴人(本訴原告) 株式会社久永製作所
被控訴人(本訴被告)東洋エンタープライズ株式会社


まず、本訴原告側の錯誤無効(商標専用使用権を設定する相手を間違えた)という主張に対して、知財高裁は、おおむね原審と同様の理由により、これを退けている。

「控訴人の主張は,その相手方がBから紹介された者であるかどうかという点に錯誤があったというものであるところ,このような錯誤は,契約を締結するに至った動機に関する錯誤にすぎないものである。意思表示の動機は,表意者が当該意思表示の内容として契約の相手方に表示した場合でない限り,法律行為の要素とはならない(最高裁昭和29年11月26日第二小法廷判決・民集8巻11号2087頁)ところ,相手方である被控訴人に,本件契約締結までに,本件契約の相手方がBから紹介された者であるかどうかという点が表示されたことはない(原判決16頁8行〜10行)から,これが法律行為の要素の錯誤となるとは認められず,本件契約が無効になることはない。」
(28頁)

続いて、本訴被告が「CROWN」と刻印されたスライドファスナーを米軍フライトジャケットの復刻品に使用した行為が、本訴原告との商標使用許諾契約の解除事由にあたるか、という点につき、知財高裁は、本訴原告が「解除事由」として主張する2点について以下のような判断を示した。

イ 商標法53条該当性の有無
商標法53条1項は,「専用使用権者又は通常使用権者が指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についての登録商標又はこれに類似する商標の使用であって商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは,何人も,当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。ただし,当該商標権者がその事実を知らなかった場合において,相当の注意をしていたときは,この限りでない。」と規定している。したがって,同項に該当するためには,「登録商標又はこれに類似する商標の使用であって商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるもの」をすることが必要である。
本件ファスナーは,スライダーの本体部分又はプル部分の各表側に本件商標の刻印が,同裏側に「USA」又は「MADE IN USA」の刻印があり(原判決19頁8行〜11行)、)「CROWN」と「USA」又は「MADE IN USA」とが連続しているとか,一体の商標と認められる程度に近接して表されているということはできないから,「CROWN」と「USA」又は「MADE IN USA」とが全体として一つの商標を構成していると認めることはできない。したがって,本件ファスナーには,「CROWN」という登録商標が付されているものの,「CROWN」と「USA」又は「MADE IN USA」とが一体となった「登録商標に類似する商標」が付されているということはできない。そして,「CROWN」という登録商標のみから,商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるということもできないから,被控訴人が「登録商標又はこれに類似する商標の使用であって商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるもの」をしたということはできず,商標法53条1項に該当する事実は認められない。」
(29-30頁)

ウ 不正競争防止法2条1項13号該当性の有無
被控訴人が本件ファスナーに「USA」又は「MADE IN USA」の表示を付した行為(原判決19頁8行〜11行)は,不正競争防止法2条1項13号が規定する原産地を誤認させるような表示をする行為に当たる。
また,?上記の被控訴人が本件ファスナーに「USA」又は「MADE IN USA」の表示を付した行為,?被控訴人が商品カタログにおいて「フロントファスナー:クラウン社製スプリングカムロック式」の表示をした行為(原判決20頁7行〜8行),?被控訴人がホームページにおいて「クラウン社製スプリングカムロック式ジッパー」(原判決20頁18行〜20行)の表示をした行為は,本件ファスナーが,クラウン社製のファスナーのヴィンテージ物と誤信されるおそれがある行為であるから,不正競争防止法2条1項13号が規定する内容又は品質を誤認させるような表示をする行為に当たる。」
(30-31頁)

商標法53条該当性については原審と同じ判断になっているが、不正競争防止法2条1項13号に関しては原審以上に踏み込んで、「該当する」と明確に言い切った点に本判決の特徴があるといえるだろう。


この点については、本ブログでも地裁判決に対して疑義を呈していたところだし、被控訴人もその主張の中で、

「この点に関し、被控訴人の使用に至る経緯、使用の状況、復刻品という商品の特殊性、被控訴人商品の市場での評価、アメリカンカジュアル衣料業界における事情等々に基づく主張が採用されなかったことについては残念であるが・・・」(25頁)

と述べているところで、いかに知財高裁の判断とはいえ、復刻品に「現物」と同じ表記をすることが「原産地誤認表示」と断言されてしまうことには大いに疑問を感じるところである。


もっとも、知財高裁は、「不競法2条1項13号違反をもって契約を解除することができるか」という点について以下の理由を挙げて、結論としては本訴原告側の請求を退けていることに注意する必要があろう。

(イ)被控訴人は、被控訴人の商品を復刻品であると明示して販売しており、被控訴人の商品の直接購入者の多くもそのようなものとして受け止めている。
(ウ)控訴人は平成18年11月13日付第一準備書面において本件契約を解除する意思表示をするまで、本件ファスナーについての原産地、内容、品質の誤認を生じさせる行為を問題として被控訴人に対して中止を求めたことはない。
(エ)被控訴人は、「USA」等の文字を削除するように指示し、新たな金型による納品が開始されている」
(31-33頁)

結局、裁判所としては、不競法2条1項13号該当性については“堅い”判断を維持しつつ、解除自体の相当性を判断する場面で、「復刻品」としての特殊性に配慮するのが妥当、と判断したのだろう。


説示としては、極めてスッキリした今回の判決。


本件のような事案ではなく、不競法2条1項13号該当性そのものが争われた場合に同じような判断がされてしまうと、ちょっと困ったことになるような気もするのであるが、「post-sales confusion」などという突拍子もない理屈を持ち出さなかった分、まだ救いはあるように思う。