金持ちも喧嘩する時代

以前からくすぶっていたこのニュースがついに火を噴いた。

中部電力は10日、タービン事故で2006年6月から07年3月まで停止していた浜岡原発5号機(静岡県御前崎市)をめぐり、タービン製造元の日立製作所を相手取って、停止中の電力を補うため割高な火力発電施設を臨時稼動させた追加費用の賠償を求める訴訟を東京地裁に起こす方針を固めた。請求額は数百億円規模となる見通し」(日本経済新聞2008年9月10日付夕刊・第16面)

その後のプレスリリース*1によると、請求額は418億円。契約の中にある瑕疵担保条項を手掛かりに、ということらしい。



「日本の企業も司法を活用するようになったのか。良いことだ。」と評価する声もあるのかもしれないが、企業法務の端くれにいる人間の感想として言えば、

「ここまでやるか・・・?」

というのが率直な感想である。


確かに、原発の事故が電力会社にもたらす影響は甚大だろうし、それゆえ株主と「取締役の責任」を意識して、逸失利益の請求にまで踏み込みたくなる気持ちは分かる。


だが、仮にここで一時の勝利を収めたとしても、その先に待っているのが何か、ということを考えると、自分なら躊躇する。



元々、この種の特殊な産業機器の市場は、独占企業体と寡占的な大手メーカーとの間の牧歌的な取引で成り立っているものだから、エレクトロニクス業界やシステム業界などと比べれば、個々の契約条項の中身も大らかなものが多い、とも言われているところである。


そして、中電がこれだけ強気に出ているところを見ると、おそらく契約中の瑕疵担保条項には責任限度額の定めも賠償範囲の限定も存在しないのだろう*2


だが、今回火を噴いてしまった以上、メーカー側としては当然、次回以降の契約でそんな甘い条件で契約するわけにはいかない、と牙をむくことになる。


ユーザーの方が立場が強いのだから、メーカーがごねれば発注先を変えればいいではないか、という意見もあるだろうが、原発の厳しい基準に対応できるだけの製品をつくれるメーカー、となると、どうしても世界的に見ても相手にできるような会社は限定されてきてしまうから、そう簡単に切り替えるわけにもいかないだろう。


それゆえ、発注者は、「418億」という巨額の請求を伴う訴訟を起こすことの負担(印紙代的にも弁護士報酬的にも・・・)に加えて、今後の日立製作所との激しいやり取り、という新たなコストもを負担せざるを得なくなる・・・。


ぞっとするような話ではないか。



今回のケースに関して言えば、復旧費用を日立製作所が全て負担することについては既に合意に達していた、というのだから、それに少し色をつけるような水準で交渉にあたっていれば、一応はお互いの面目を立てる形でスムーズに解決できたように思えてならない。


まぁ、訴えられた日立も、業界ではかなりの「堅物」として知られる会社だけに、逸失利益の賠償なんぞは(明白な根拠がない限り)一銭たりとも出さない、という交渉スタンスで臨んでいたのかもしれないし、そうであれば、こうなることもやむを得ない、と言うことができるのだろうが・・・。


理論上損害賠償できるからといって、本当に損害賠償請求してしまうことが妥当なのかどうか。


どのような結末になるのか、今ここにある情報だけで見通すことは困難であるが、いろいろと考えさせられるCaseであることは間違いない。

*1:http://www.chuden.co.jp/corpo/publicity/press/ac_press/1188755_1034.html

*2:そんな緩い条項をシステム関係の業界の担当者が見たら、“アンビリーバブル”と卒倒するに違いない。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html