簡単にあきらめてはいけないことを教えてくれる判決。

本来は知財高裁で決着していなければならなかった事件で、なぜか最高裁判決が出されている。

最二小判平成20年9月8日(H19(行ヒ)第223号)*1

上告人は、登録商標「つつみのおひなっこや」(第4798358号)の商標権者だが、平成16年8月27日の商標権設定登録後、「つゝみ」、「堤」の商標権者である被上告人から無効審判を請求されていた。


そして、被上告人(原告)が特許庁の無効審判不成立審決の取り消しを求めた原審において、「本件商標が商標法4条1項11号に該当する」、として被上告人の請求を認容する判決が出されたために、上告審に持ち込まれることになったのである。




通常、審決取消訴訟のような“定型的”紛争において、登録(拒絶)要件該当性のみが争点になっている場合には、第一審である知財高裁で決着が付くことがほとんどであり、上告しても大抵は“無駄な抵抗”として、不受理決定を食らうのが落ちであった。


商標法の登録要件をどのように当てはめるか、特に商標の類否判断については、最高裁が出した判例を元に、特許庁の審決や下級審判例が膨大に積み重ねられているから、そういった所定の“パターン”に則って争われてきた事例をあらためてレビューする必要性は乏しい。


それゆえ、近年では最高裁も積極的な判断を行うことは避けてきたのだろうし、元々、審判から持ち上がった弁理士代理人を務めていることが多い審決系訴訟のこと、あえて上告審まで持ち込むよう薦める代理人も稀なのが現実であった。


だが、本件では、最高裁が上告申立てを受理した上で、以下のような判断で、原審判決を破棄差戻としている。

(1) 法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照),複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁参照)。
(2) これを本件についてみるに,本件商標の構成中には,称呼については引用各商標と同じである「つつみ」という文字部分が含まれているが,本件商標は,「つつみのおひなっこや」の文字を標準文字で横書きして成るものであり,各文字の大きさ及び書体は同一であって,その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているものであるから,「つつみ」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできない。また,前記事実関係によれば,引用各商標は平成3年に商標登録されたものであるが,上告人の祖父は遅くとも昭和56年には堤人形を製造するようになったというのであるから,本件指定商品の販売業者等の取引者には本件審決当時,堤人形は仙台市堤町で製造される堤焼の人形としてよく知られており,本件商標の構成中の「つつみ」の文字部分から地名,人名としての「堤」ないし堤人形の「堤」の観念が生じるとしても,本件審決当時,それを超えて,上記「つつみ」の文字部分が,本件指定商品の取引者や需要者に対し引用各商標の商標権者である被上告人が本件指定商品の出所である旨を示す識別標識として強く支配的な印象を与えるものであったということはできず,他にこのようにいえるだけの原審認定事実は存しない。さらに,本件商標の構成中の「おひなっこや」の文字部分については,これに接した全国の本件指定商品の取引者,需要者は,ひな人形ないしそれに関係する物品の製造,販売等を営む者を表す言葉と受け取るとしても,「ひな人形屋」を表すものとして一般に用いられている言葉ではないから,新たに造られた言葉として理解するのが通常であると考えられる。そうすると,上記部分は,土人形等に密接に関連する一般的,普遍的な文字であるとはいえず,自他商品を識別する機能がないということはできない。このほか,本件商標について,その構成中の「つつみ」の文字部分を取り出して観察することを正当化するような事情を見いだすことはできないから,本件商標と引用各商標の類否を判断するに当たっては,その構成部分全体を対比するのが相当であり,本件商標の構成中の「つつみ」の文字部分だけを引用各商標と比較して本件商標と引用各商標の類否を判断することは許されないというべきである。
(3) そして,前記事実関係によれば,本件商標と引用各商標は,本件商標を構成する10文字中3文字において共通性を見いだし得るにすぎず,その外観,称呼において異なるものであることは明らかであるから,いずれの商標からも堤人形に関係するものという観念が生じ得るとしても,全体として類似する商標であるということはできない。
(4-6頁)

確かに、原審の判決(知財高判平成19年4月10日)*2を読むと、商標の要部を認定する過程で相当強引な論理展開が見られ、最高裁がひっくり返したくなるのも理解できるのであるが、それにしても珍しいケースだなぁ・・・、という思いは残る。


当たり前の話であるが、知財高裁は最上級審ではない。


そして、理があれば、天下の知財高裁の判決といえど、当然にひっくり返る可能性はある。


「簡単にあきらめるな」というメッセージを与えてくれる・・・、本件はそんな判決なのかもしれない。


なお、本判決で引用されている先例へのリンクを参考までに挙げておくことにする。

最三小判昭和43年2月27日(民集22巻2号399頁)(「しょうざん」事件)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/C20EFADEA9BCA1F249256A850031236C.pdf
最一小判昭和38年12月5日(民集17巻12号1621頁)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/4BFC935227B9ABB049256A850031610C.pdf
最二小判平成5年9月10日(民集47巻7号5009頁)(「SEIKO EYE」事件)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/B940661E2BD9E6D949256A8500311E55.pdf

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