今さら過ぎるだろっ!と、突っ込みを受けそうであるが、NBLの
「若手・中堅法務担当者 覆面座談会」
「法務部門・法務担当者の現在そして明日(上)(中)(下)」
を通して読んでみた*1。
NBLで3号にわたって座談会企画を連載するなんて、なかなかあるものではないし、それだけ商事法務も気合が入っていたのだろう、と推察するのであるが、さすがに「若手」にはちょっと荷が重かったのか、どちらかと言えば当たり障りのない話に終始している印象を受ける*2。
(中)以降では、「他部署へのサポート・連携方法」の話題など、若干踏み込んだ話になっているところもあるのだが、もう一歩踏み込んでほしいところで次の話題に移ってしまったりして、ちょっと拍子抜けだ*3。
もっとも、冷静に考えれば、この程度の“世間話”でも、公刊されるような雑誌、書籍にはこれまで載せられてこなかったわけで、その意味では「あえて3回載せた」ことにも意義はある、ということになるのだろう。
ここ数年は、「企業法務」というフィールドが、これからの司法制度改革の鍵を握る重要な舞台だ、と散々言われ続けているし、“法務”の重要性を説く意見も巷にはあふれている・・・にもかかわらず、実際にそこで仕事に従事している人間の素朴な声が世の中で広く取り上げられてこなかった、というのは、あまりに不思議な現象だといわざるを得まい*4。
そういった状況に一矢報いるきっかけになりうるのであれば、「人柱」(失礼!)になった7人の若手担当者の苦労も報われるだろうと思う。
なお、一つひとつのテーマについて、取り立てて感想を述べるつもりもないのだが、気になったコメントをひとつだけあげておくことにする。
通信会社在籍5年目、法務経験3年目の「Fさん」のコメント。
「少し突拍子もない問題提起かもしれませんが、「法務」部門とか企業「法務」という名前さえも変える可能性を検討すべきではないかと個人的には思います。」
(中略)
「先ほど申した法務担当者に求められる素養から考えると、法務部門は、「法務」という名前があるばかりに優秀な学生や社内外の法務への異動希望者を取り逃しているように思います。今後各社の法務責任者はその点も考えるべきなのではないかなと思っているのです(笑)」
(以上、NBL886号56頁)
この方は、取引法務の担当として、法務担当者にも「ビジネスパーソンとしての力」が必要であることを痛感されているがゆえに、それを強調するために上記のような発言に至ったようであるし、これに続けて「世界の企業法務という職種のプレゼンスが少しでも上がっていくような取組みをしたい」と夢を語っていたりもするから、決して法務部門の存在意義を軽んじているわけではないのだろう。
だが、一部のメーカー等を除けば、この国の数多ある会社の法務部門が「法務」という名前を冠するようになったのは、つい最近のことである。
そして、そこに至るまでの間には、「総務」という“お茶汲み&宴会・葬儀手配集団”の一パートとして扱われていたり、人事や営業、経営戦略といった花形部門の隅の方で刺身のツマのような扱いを受けてきた、という悲しい歴史もあった、というのが、多くの会社で共通する物語だろう。
世のリスク意識の高まりとともに、「法」を操れる専門性の強い人材にスポットライトが当たり、やがて独立した「法務部(門)」として活動することを許された・・・
先人が積み重ねてきた、そういった歴史の重さを、自分は身に染みて感じてきたから、
「法務」という名前なんて変えちゃった方がいい。
という論調には、耐えがたい軽さを感じる。
ビジネスの世界に身を置く以上、「法務担当者」といえども、コミュニケーション能力だとか、洞察力、行動力、決断力、といった資質が必要なのは言うまでもない。
だが、それらは、「法」とその周辺にあるビジネス規範を深く理解し、それらを日夜学び続ける志があってはじめて、意味をなすものだと自分は思っている。
「法務」という看板を掲げた組織の敷居は、確かに高いように見えるのかもしれないが、法務部門が本来、単なる“組織の歯車”、“ビジネスの歯車”を超えた役割を担う組織であることを考えれば、それっくらいの敷居の高さはあって然るべきだと思うし、そのような“敷居”がなくなってもなお、組織として本来為しうべき使命を果たせるだけの力を持った「法務部門」など、そうそうあるものではないだろう。
ビジネスパーソンとしての柔軟性と、スペシャリストとしての折れない魂。
一見あい矛盾するような両者を絶妙なバランスの上で成り立たせているのが、「法務」という絶妙な日本語の“冠”であり、それがあるからこそ、個々の「法務担当者」が自らの使命を邁進できるのだ、ということに、我々はもう一度思いを馳せるべきではないだろうか・・・。
以上、「Fさん」には申し訳ない終わり方になってしまったが、悪気はないので、どうかご勘弁を。
ついでに、全く期待はしていないが、次の同種企画をどこかの雑誌社さんでやるようなことがあったら、ここにも一声、お願いしたいところである。
トコトン語るから(笑)*5。
*1:NBL884号18頁、885号30頁、886号50頁。
*2:このクラスの担当者なら、気軽にふらっとお出かけ、というわけにもいかないだろうから、「覆面」といいつつも、参加は事前承認、事後に上司のゲラチェック、なんてことになっていそうだし・・・(笑)。
*3:比較論で言えば、筆者一押しの『Business Law Journal』の匿名座談会の方が面白かったなぁ・・・とも思う(くどいようだけど、回し者じゃないです。念のため)。
*4:ちなみに、「法務部長」とか「法務担当役員」とかいう立派な肩書をお持ちの方の“見解”をいくら載せても、“法務”という仕事の生の姿を伝えることにはならない。彼らの多くはプレーヤーとしての経験を持たないか、あるいは持っていても第一線から離れて久しい人たちだったりするからだ。まぁ、この辺はどんな業界、どんな仕事にも共通することなのだろうけど。
*5:あくまで顔出しNGなので、ちゃんと覆面も用意しといてくれると嬉しいw