動かされた特許庁

特許庁のページに興味深いリリースが出ている。


「商標登録の取消・無効審判の請求の趣旨中「○○及びこれに類似する商品」の表示の取扱について」と題するこのリリース。
http://www.jpo.go.jp/tetuzuki/sinpan/sinpan2/syouhyou_hyouji.htm

「商標登録の取消審判又は無効審判を請求するに際して指定商品又は指定役務(以下「指定商品」という。)の一部について審判を請求する場合、審判請求書の「請求の趣旨」の欄に「○○及びこれに類似する商品」などの表示を記載して、取消し又は無効を求める指定商品の範囲を特定することがある。」
「審判請求書の「請求の趣旨」は、請求人が記載するものであり、当該記載に基づいて審判請求の審理の対象となる範囲が決められるものであるところ、これらの表示は、一部取消し又は一部無効の審決が確定した場合、登録商標の効力の及ぶ指定商品の範囲が曖昧となることから、以下の手続きに従い、請求の趣旨の不明確な審判請求書として取り扱うこととする。」


と冒頭で述べた上で、「手続補正書」「審尋」といった手続きを説明し、「本取扱は、平成20年10月1日より開始する」と記されたあたりまでは通常のリリースであるが、面白いのはここからだ。

(補足説明)
商標法4条1項11号の拒絶理由への対応として引用登録商標に対し不使用取消審判を請求する場合があるところ、審判請求にあたっては、取り消した指定商品となお類似する商品が引用登録商標に残る場合や如何なる商品が引用登録商標に残るか不明確な場合、審判請求書の「請求の趣旨」に「○○及びこれに類似する商品」と記載して取消しを求めることがある。
また、無効審判請求においても、商標法4条1項11号等に該当することを理由とする場合に、同様の理由から「請求の趣旨」に「○○及びこれに類似する商品」と記載して無効を求めることがある。
しかしながら、知的財産高等裁判所において、取消審判請求や無効審判請求の「請求の趣旨」として「○○及びこれに類似する商品」等の表示は、審決が確定した場合に登録商標の効力の及ぶ指定商品の範囲が客観性を欠き法的安定性を害する等との理由から、不明確な請求の趣旨に対する是正手続きを行うべき、との附言を呈する判決が以下のとおり3件なされている。
今般、これらの判決の附言を踏まえて、「○○及びこれに類似する商品」の表示を「請求の趣旨」に記載した取消審判請求及び無効審判請求については、上記のとおりの取扱を行うこととした。
                  記
1.平成19年6月27日判決言渡 平成19年(行ケ)第10084号 審決取消請求事件
2.平成19年10月31日判決言渡 平成19行(行ケ)第10158号 審決取消請求事件
3.平成19年11月28日判決言渡 平成19年(行ケ)第10172号 審決取消請求事件

本ブログの読者の皆様にはあらためてご説明するまでもないだろうが、上記3件の判決を出したのは、言わずもがな、我らが「飯村コート」である*1


上記1.「ココロ/KOKORO」の不使用取消審判不成立審決取消訴訟判決の「結語」の章*2での説示に始まった、「請求の趣旨」特定問題は、特許庁が自ら取扱いを変更することにより決着することになった。


「附言」というよりは「苦言」に近い知財高裁の指摘をさすがに無視するわけにもいかなかったのだろうが、上記補足説明の書きぶりを見ていると、

「本来は問題にするようなことなんじゃないんだけど、裁判所がうるさいから取扱い変えてやるよ、けっ!」

的なニュアンスが汲み取れなくもない(笑)。


当面は勢いのある判決を繰り出し続けるであろう知財高裁第3部のこと、今後も審判手続に対して“物申す”付言が出てくることが予想されるが、これを特許庁がどのように受け止め、受け流すのか。


行政審判を司法府がレビューする、というのは三権の構造上当然のこととはいえ、租税等、一部の分野を除けば裁判所の消極的な姿勢が目立っていた我が国において、この攻防が注目すべきものであることは間違いない。

*1:過去のエントリーとしては、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20070708/1183936893http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20071206/1197174421がある。

*2:最近は「付言」が目立つ飯村コートだが、このときはまだ「付言」というタイトルは使われていない(笑)。

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