思わぬ副産物

ここ数日、日経新聞の社会面では、「小室哲哉容疑者逮捕」の話題が断続的に取り上げられているのだが、今日の夕刊では、

「小室容疑者が投資家の男性に譲渡を持ちかけた806曲の一部が、譲渡話の前から既に「二重譲渡」の状態だった。」

という話題を取り上げた上で、

著作権/登録制度/機能せず」

という小見出しの元、著作権の移転登録に関する“制度の欠陥”について、多くの紙幅を割いて論じている*1


記事の中で取り上げられている“声”を見ても、

「公的な裏付けがないまま著作権が取引されるため、詳しい権利関係を外部から把握できない仕組みになっている」(業界関係者)

(登録制度が)「義務ではなく料金もかかるため利用が進まず、権利の所在証明として役に立たないのが実態」(日本レコード協会

と現行制度に対するネガティブな評価ばかりだ。



著作権の移転登録制度が機能していないのは、本来登録するメリットを享受しうるはずの当事者(第一譲受人)にとって、

「譲渡対象となる著作権の価値」×「二重譲渡により譲受人が劣後して不利益を受ける確率」

よりも、

「登録にかかる費用・手間隙&交渉のコスト」

の方がはるかに大きい、という現実があるからで、前者のリスクが極めて小さい以上*2、制度を少々いじったところで状況は変わらないんじゃないの?(ゆえに、現に機能していないことをもって「制度の不備」というのは、ちょっと違うのでは?)というのが自分の素朴な感想なのだが、

(今回の事件は)「著作権取引を巡る制度の不備を象徴する事件」
「登録の義務化や料金引き下げなど制度の是正を急がなければ、同種の事件が今後増える恐れもある」(以上、坂田均・同志社大法科大学院客員教授のコメント)

などというコメントが掲載されているのを見ると、今回の事件をきっかけに、新たな立法の動きが出てきたりするのかなぁ・・・、と思ったりもしている*3


世間の注目を集める大事件が思わぬ副産物をもたらす、ということは良くある話だが、今回の事件もその系譜に属することになるのか、ちょっと注目されるところである。

*1:日本経済新聞2008年11月6日付夕刊・第21面

*2:契約する相手さえ間違えなければ、仮に何かの弾みで譲り受けた著作権が二重譲渡されてしまったとしても、具体的に不利益が生じるという事態は考えにくい。「取引対象となった著作権が莫大な富を生む類のもの」で、かつ、「高名なアーティストとして知られる原著作者が巨額の借金を抱えてニッチもサッチも行かない状況に陥っていたために二重・三重譲渡が実際になされた」という本件のようなケースは、極めてレアなものだと思われる。

*3:確かに、登録制度の「公示機能」という側面に着目するならば、これから取引に入ろうとする第三者が権利の所在を明確に認識できないような制度には不備がある、と言われても仕方ないのは確かだろう。もっとも、「対抗要件」としての側面からは、先述したように「制度に不備がある」とまでは言えないように思われるし、仮に制度を是正するにしても、坂田教授が提唱されている内容とは正反対の方向に向かった方が合理的なのではないかと思われる(登録制度を強化すればするほど、「登録がないことを奇貨として著作権の二重譲渡を受け、先に移転登録を行う第二譲受人」を利することになりかねない。)。