昨年、「LOVE」という商標をめぐる争いを何度か取り上げてきたが、商標権者側が唯一面目を保っていた「Love cosmetic」事件でもついに結論がひっくり返った。
ある意味、「LOVE」に致命的な一撃を与えた、とも言えるような大阪高裁の判決をご紹介することとしたい。
大阪高判平成20年11月7日(H19(ネ)第3057号、H20(ネ)第420号)*1
控訴人・附帯被控訴人 株式会社ナチュラルプランツ
被控訴人・附帯控訴人 株式会社クラブコスメチックス
原審判決(大阪地判平成19年10月1日)は、控訴人(被告)の「Love cosmetic」、「ラブコスメ」といった商標の要部を「Love(ラブ)」であると認定し、被控訴人(原告)商標との類似性を肯定していた*2。
だが、大阪高裁は、地裁の認定判断を180度転回して全く正反対の結論を導いている。
まず、要部の認定については、
「すなわち,「Love」は,我が国においても極めて周知度の高い英語であり,「愛」「恋愛」という観念から,肯定的に受容され,普遍的に好感を持たれる語ということができ,化粧品に限っても,「Love」「ラブ」の語を含む登録商標は多数に上ることが認められ(乙32,弁論の全趣旨),化粧品以外の商品・役務においても,これらの語を含む商品名やブランド名等が多数存在することは公知である。そして,それゆえに,これらの語は商品等の標章に用いるものとしてはやや陳腐であって,少なくとも「Love」「ラブ」単独では,化粧品に限らず,商品識別・出所表示の機能は弱く,他の語と連結されることによりそれと一体のものとして商品識別機能を果たす場合も多いものと考えられる。」
「他方,「cosmetic」は,「化粧品」を意味する英語で,比較的周知度が高いとはいえ,日本人にとって必ずしも易しい単語とはいえないから,通常の需要者が,控訴人標章中「cosmetic」の部分を,「化粧品」と同等に,控訴人商品が化粧品であると意味するにすぎないと直ちに理解するとまではいえず,この語に自他商品識別能力がまったくないとはいえない(この点は,「Love cosmetic」ないし「ラブコスメティック」と,これらと観念上はほぼ同一といえる「ラブ化粧品」という表記とを対比すれば明らかである。)。加えて,「Love」と「cosmetic」がいずれもアルファベット表記であることを考慮すると,「Love」と「cosmetic」とを結合した一体の標章として認識されやすく,称呼としても通常「らぶこすめてぃっく」と一連のものとして称呼されるものと考えられるから,必ずしも「Love」のみが要部であるということはできず,むしろ「Love cosmetic」が一体として要部となるとみるのが相当である。」(18頁)
と、「cosmetic」部分の評価を一変させることによって異なる結論を導いているし*3、類否を判断するために用いる「取引の実情」についても、
「需要者は,控訴人商品を直接店頭で選択・購入することはなく,すべて通信販売(インターネット・電話・FAX・ハガキ)によることとなり,商品の選択・特定は,通常,控訴人HPか控訴人のパンフレットによってするものと解される。そして,控訴人HP及び控訴人のパンフレットの上記内容をみれば,控訴人の販売する製品が,通常の化粧品メーカーないし販売業者(被控訴人を含む。)とは異なり,性的用途に用いる化粧品・雑貨等に特化していることが容易に理解でき,また,雑誌でもそのような情報が提供されているから,需要者は,控訴人商品を注文する時点では,上記のような控訴人ないし控訴人商品の特性を当然に認識していると認められる。」
「なお,甲14,31及び弁論の全趣旨によれば,化粧品のユーザーによる投稿を掲載するウェブサイトである「@コスメ」には,控訴人商品を性的用途ではなく単なるローションとして使用している等の書込みが複数あることが認められるが,投稿の内容に照らし,これらの投稿者にも,性的用途のために又はそれも考慮して購入した者があると認められる上,同サイトの性格上,投稿の内容が化粧品としての効果等に限られ,控訴人商品の使用実態を反映するとはいえないから,これらの書込みがあることをもって,控訴人商品と被控訴人商品との需要者が重複すると認めることはできない。」
(23-24頁)
と、これまた「@コスメ」サイトへの書き込みに対する評価等を一変させ、控訴人商品と被控訴人商品の違いを強調することにより、これを類似性を否定する材料として活用している*4。
そして、
「以上の事情に加え,被控訴人商標の使用実績が微々たるものにとどまることも併せ考えると,通常の化粧品の需要者が,控訴人HPや控訴人カタログ掲載の商品を通常の化粧品と誤認して購入する可能性や,被控訴人商品の需要者が控訴人商品を被控訴人商品と誤認混同し,又は出所を誤認混同するとはいえない。」(24頁)
として、商標の類似性を否定したのである。
かくして、「附帯控訴までして完全勝利を目論んだ被控訴人(原告)」の思惑は完全に崩れ去ることになった*5。
さしたる新事実が示されたわけでもない商標権侵害訴訟の控訴審で、ここまで原審と判断が食い違う、というのも珍しいのではないかと思うが、自分は元々、「LOVE」といったストレートかつシンプルな商標について特定人が独占権を行使できる、という結論自体に大いなる違和感を感じていたから、
最初からこうしておけばよかったのに。
という思いに駆られたりもしている。
いずれにせよ、高裁段階で結論がひっくり返ったことで、胸をなでおろしている人も決して少なくはないことだろう。
そして、あまりの陳腐さ、ストレートさゆえに、商標としての機能を失いつつある「LOVE」。
権利の衣を剥ぎ取られ、生まれたままの姿(というかアルファベット4文字の文字列)に還りつつあるこの「愛」の行方が、筆者には気になって仕方がない(笑)。
*1:第8部・若林諒裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081113085621.pdf
*2:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20071222/1198912739
*3:その結果、被控訴人商標「LOVE」とは外観・称呼・観念を異にすることになる。
*4:「取引の実情」に関しては、原審判決に対するコメントで筆者が指摘したように、控訴人(被告)側にも、自らの商品の“化粧品”としての特性を使って顧客層を拡大しようという意図が見受けられるから、本判決のように重複を完全に否定してしまうのは、ちょっと行き過ぎのようにも思えるのだが・・・。
*5:元々、大阪地裁が、商品の破棄等について仮執行宣言を付さなかったことなどを考えると、結論が覆る可能性も考えられなくはなかったのだが・・・。