こういう時だからこそ戦え!

サブプライム・ショックに端を発した景気悪化」という見出しが連日のように躍る今日この頃。


それに伴って、設備投資の抑制だとか人員削減だとか、といった、ますます景気を悪くするような話題が世の中に満ちてきているのだが、そんな中、一筋の希望を見出せるようなニュースが出てきた。

「マンション分譲の日本綜合地所(東京)が来春入社予定の大学4年生53人全員の内定を取り消したことが28日、分かった。一部の学生は個人加盟できる地域労組「全国一般東京東部労組」に加入して、同社側に金銭補償などを求めて団交を申し入れている。」
日本経済新聞2008年11月29日付朝刊・第38面)

企業人という筆者の立場を考えると、ここで手放しで喜んではいけないのかもしれないが、それでも、安易な「便乗的内定取消」に掣肘を加える、という意味で、法務に携わる人間であれば、こういった動きはむしろ積極的に評価しなければならないと思う。


内定者が労組法上の「労働者」として認められるのか*1、採用内定取消時点(11月17日)における会社と内定者の間の翌春からの入社合意に労働契約としての拘束力がどの程度存在したのか(後述する大日本印刷事件との差異をどのように評価すべきか。)、また、仮に日本綜合地所による内定取消が「解雇権濫用」と評価される場合に内定者に対してどのような救済を与えるのが適切なのか*2等々、論点になりそうな問題はいくつかあるのだが、

「誰かが問題提起しなければ、安易な方向に流れていく」

というのも世の現実なわけで、ここは、ただ泣き寝入りするのではなく、世間の風潮に一石を投じた学生たちの勇気をまずは買いたいと思う*3



なお・・・・


内定取消を純粋な解雇と同視できるか(あるいは同視すべきか)といえば、そこには疑問もあるところ。


確かに、大日本印刷事件判決(最二小判昭和54年7月20日*4では、

「本件採用内定通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかつたことを考慮するとき、上告人からの募集(申込みの誘引)に対し、被上告人が応募したのは、労働契約の申込みであり、これに対する上告人からの採用内定通知は、右申込みに対する承諾であつて、被上告人の本件誓約書の提出とあいまつて、これにより、被上告人と上告人との間に、被上告人の就労の始期を昭和四四年大学卒業直後とし、それまでの間、本件誓約書記載の五項目の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したと解するのを相当とした原審の判断は正当であ(る)」

という判断が示されており、

「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であつて、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」

として、結果として会社側の内定取消を解雇権濫用と判断しているのだが、この事件では学生側が

「一、本年三月学校卒業の上は間違いなく入社致し自己の都合による取消しはいたしません」

という一文を盛り込んだ誓約書を提出しており、会社・学生の双方を拘束する契約の成立を認めやすかった、という事情があったことは看過できない*5

 

「内定取消」という側面だけを見れば、早期に労働契約の成立を認めてしまったほうが学生に有利なように思える。


だが、学生の側にも様々な事情があるわけで、内定段階で社員に準じるような厳格な辞退手続を「内定者」に要求する結果をもたらしかねない解釈を徹底することで、学生側に思わぬ不利益を被らせるリスクも出てくる、ということは、少し気に留めておいた方が良いのではないかと思う*6

*1:労組法上の「労働者」概念は相当広いものだから、この点については問題なく認められるのかもしれない。手元にテキストがないので断言はできないが。

*2:会社の置かれている状況が整理解雇要件を満たすようなレベルには達していなかったとしても、実際には相当苦しい状況にあるのだとしたら、内定取消を撤回させてそのまま入社を認めることが学生を救うことには必ずしもならないし、そこまでの状況になかったとしても、それでばっさりと内定取消をしてしまうような会社に勤めることが学生の将来につながるかどうかは保証の限りではない。

*3:日本綜合地所という会社の内情がどうなのかは分からないが、「53人」もの採用内定を出しておきながら、たった半年で事業環境の変化を理由に「一斉取り消し」をするなんてことは、まっとうな企業には許されない暴挙だと思う。大体、つい数日前に公表された中間決算短信でも、通期での最終黒字は確保できる見通しになっているのだから・・・(http://www.ns-jisho.co.jp/ir/pdf/kessan/081107.pdf)。

*4:http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/28C428A92FF35FDC49256A850031202D.pdf

*5:ついでに言えば、内定取消事由が「印象がグルーミー」という不可解なもので、取消通知を送付したのが卒業間近の2月12日、といったことからすれば、結論は最初から見えていたわけで、内定取消を認めなかった判例の結論を過大視するのは考え物である。

*6:特に、筆者の周りには、年明けになって駆け込み的内定辞退をする人が多かったから・・・。ま、単位を意図的に落とせば否がおうでももう一年大学に残れるわけだけれども。

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