「設立」と「新株発行」を対比して論じる、などという、古典的な論証パターンが吹き飛んでしまうような(笑)、会社法改正の動きが報じられている。
「法務省は、買収防衛などに活用される第三者割当増資により利益が縮小しかねない既存の少数株主の保護に向け、会社法改正の検討に入った。現行法では事実上、取締役会の判断で新株を発行できるが、株主総会の決議を義務付ける方向。」(日本経済新聞2008年12月7日付朝刊・第1面)
一見、なるほど・・・と思ってしまいそうだが、何か変だ。
まず、「少数株主の保護」というが、株主総会での多数決で導入を決議できるのであれば、大して状況が変わるとは思えない。
「少数株主」が何を指しているのかは分からないが、仮に個人投資家のような零細株主を指しているのであれば、普通決議だろうが特別決議だろうが、“自己に不利益”と感じた第三者割当増資を止めるのは容易なことではないし、第三者割当増資を受けられなかった2番手、3番手株主を指すのであれば、現在の法制度の下でも十分保護は可能なのではないかと思う。
株主総会決議を経ることによって、真の少数株主が裁判所に救済を求める途が閉ざされてしまう可能性があるとすれば、かえって不利益をもたらすことになるのではなかろうか。
また、そもそも、「第三者割当増資」で少数株主の利益が縮小する、というのが当たり前の前提のようになっているのだが、第三者割当て時の価格が適正に株式価値を反映していれば、理論上は株価変動は生じないはずだし*1、増資で調達した資金を適切な成長投資に振り向ければ、結果的に少数株主にとっても利益をもたらすことになるはず。
もちろん、奇妙な増資もあるのは確かだが、現在設けられている有利発行規制、不公正発行規制で果たしてカバーできないものなのだろうか・・・?
日経の記事では、
「司法判断を得るには莫大(ばくだい)な費用がかかり、少数株主は泣き寝入りすることが多い。また裁判官が経済実態に通じていなければ市場関係者が納得する判断は難しい。」(同第3面)
という解説が付されているが、「それをいっちゃおしまいよ・・・(笑)」というレベルの理由でしかないし、そもそも先ほど述べたように、株主総会の方が司法判断を仰ぐよりも少数株主に有利になる、という保証はどこにもない。
実際に株主総会決議が必要となると、手続が相当面倒になるから、安易に第三者割当増資を行おうとする会社にとっては一種の“歯止め”になりうるのかもしれないが、元々新株発行の本質的目的が機動的な資金調達にあることを考えると、そこまで面倒にすることが良いことなのか・・・?という疑問も当然に湧いてくる*2。
こう考えてくると、今回出た記事は、安直な第三者割当増資を戒めるための一種の“威嚇的アドバルーン”なのかと、勘ぐりたくもなるもので。
オイタが過ぎた一部の会社のせいで、本当に資金調達の需要がある会社が負担を強いられる可能性が出てきた、というのは、あまり気持ちの良い話ではないのだが、それ以前の問題として、法務省サイドがどこまで本気で動く気なのか、というのはもう少し見定めたほうが良いのではないか、と思うのである。