“ロケーションフリー”サービスをめぐる判断のギャップ。

先日ちらっとご紹介していた、「まねきTV」の知財高裁判決。


放送局側の請求が棄却された、という結論自体に変わりはないのだが、仮処分から地裁判決までの判示とは微妙にトーンが変わっている印象も受ける。


いずれもっと丁寧な分析を誰かがしてくれるだろう、と信じて、ここでは寝かせていた他の“ロケフリ”事例と合わせて、ざっと見の印象で片付けてみることにしたい。

知財高判平成20年12月15日(H20(ネ)第10059号)*1

控訴人(原告) :日本放送協会ほか民放5社
被控訴人(被告):株式会社永野商店


これまでにも様々なところで取り上げられてきたと思うが、本件は、放送事業者である原告(控訴人)らが、

「まねきTV」という名称で、被控訴人(永野商店)と契約を締結した者がインターネット回線を通じてテレビ番組を視聴することができるようにするサービス」

が、「(1)控訴人らが放送事業者として有する送信可能化権」と、「(2)控訴人らが著作権者として有する公衆送信権」を侵害している旨主張して、行為差し止め及び損害賠償の支払いを求めた事案である。


原審(東京地判平成20年6月20日、H19(ワ)第5765号)*2では、上記の争点について、システム構成等について詳細な認定を行った上で、以下のような判旨により、原告側の主張を退けていた。

送信可能化権侵害について
「前記のとおり,本件サービスにおいて,ベースステーションによる送信行為は各利用者によってされるものであり,ベースステーションから送信されたデジタルデータの受信行為も各利用者によってされるものである。したがって,ベースステーションは,各利用者から当該利用者自身に対し送信をする機能,すなわち,「1対1」の送信をする機能を有するにすぎず,不特定又は特定多数の者に対し送信をする機能を有するものではないから,本件サービスにおいて,各ベースステーションは「自動公衆送信装置」には該当しない。」(91頁)
「以上のとおりであるから、本件において、ベースステーションないしこれを含む一連の機器全体が「自動公衆送信装置」に該当するということはできず、ベースステーションから行われる送信も「公衆送信」に該当するものということはできない」(92頁)

公衆送信権侵害について
1)「本件において、ベースステーションないしこれを含む一連の機器が「自動公衆送信装置」に該当するということはできず,ベースステーションから行われる送信は「公衆送信」に該当するものではないことは,前記3で述べたとおりである。また,自動公衆送信し得るのはデジタルデータ化された放送データのみであり,アナログ放送波のままでは,インターネット回線を通じて「送信」することができない。したがって,アンテナ端子とベースステーションとを接続することにより,アナログ放送波がベースステーション流入しているとしても,その放送波の流入によっては,自動公衆送信し得るようにしたものとはいえない。そして,本件サービスにおいて,アナログ放送波は,各利用者が選択した場合のみ,デジタルデータ化され,送信し得る状態になることからすれば,被告が自動公衆送信される放送データをベースステーションに入力しているということもできない。」(97頁)
2)「アンテナ(端子)が単独で他の機器に送信する機能を有するものではなく,受信機に接続して受信設備の一環をなすものであること,ブースターは,電気信号を増幅する機能を有するものの,アンテナ端子からの放送波を単に供給する役割を果たすにとどまり,これ自体が単独で他の機器に送信する機能を有するものではないこと,分配機は,単独で他の機器に送信する機能を有するものではなく,アンテナを複数の受信機で共用するために,アンテナからの1本の給電線を分岐させて複数の給電線と接続させるとともに,それに伴う抵抗の調整を行うにすぎないものであり,これ自体が単独で他の機器に送信する機能を有するものではないことは,技術常識に照らし明らかである。以上によれば、被告がアンテナ端子とベースステーションとをブースター及び分配機を介して接続する行為は、ベースステーションにおいて放送波の受信を行うための物理的設備の単なる提供にすぎないとみるのが相当であり、送信行為には当たらないというべきである。すなわち,被告の行為は,単に各利用者からその所有にかかるベースステーションの寄託を受けて,電源とアンテナの接続環境を供給するものであるにすぎず,著作権法2条1項7号の2所定の公衆送信行為に該当するものではない。」(99頁)
3)「なお,前述のとおり,本件サービスにおいて,受信機(利用者の専用モニター又はパソコン)に向けて,本件放送のデータを直接に送信する役割を果たす機器はベースステーションである。被告が,アンテナ端子とベースステーションとを接続し,本件放送のアナログ放送波をベースステーション流入させているとしても,被告の上記行為によっては,本件放送が受信機(利用者の専用モニター又はパソコン)まで送信されることはない(利用者の専用モニター又はパソコンからの指令がなければ,ベースステーションにおいて,アナログ放送波がインターネット回線を通じて送信可能なデジタルデータ化されることはない。)。そして,このベースステーションから受信機に向けての送信の主体が各利用者であると解されることは,既に述べたとおりであるから,被告は,原告らと受信機(利用者の専用モニター又はパソコン)に向けて送信する主体である各利用者との間をつないで,本件放送の放送波(電気信号)をいわば運搬しているにすぎないのであって,被告による上記行為は,「公衆によって直接受信されることを目的と」するものではないというべきである。」(99-100頁)

結局のところ、本件サービスで重要な役割を果たしている「ベースステーション」が各利用者と「1対1」で対応していることと、ベースステーションと各利用者の間の送信行為をコントロールしているのはもっぱら各利用者である、ということが、この事案においては極めて大きな意味を持っていたといえるだろう。

控訴審判決の独自性

上記のような地裁判決の判断のベースとなった事実認定は控訴審判決でも全くそのまま引用されているから(24頁)*3、放送事業者側がそれまでの結論を覆すのは相当困難だったといえるだろう。


だが、名だたる弁護士をそろえた控訴人弁護団が、法解釈や送信行為主体をめぐる判断について、原判決の問題点を激しく突いてきたこともあって、控訴審判決には微妙な変化もみられる。


送信可能化権侵害については、

「本件サービスにおいては,利用者各自につきその所有に係る1台のベースステーションが存在し,各ベースステーションは,予め設定された単一のアドレス宛てに送信する機能しか有しておらず,当該アドレスは,各ベースステーションを所有する利用者が別途設置している専用モニター又はパソコンに設定されていて,ベースステーションからの送信は,各利用者が発する指令により,当該利用者が設置している専用モニター又はパソコンに対してのみなされる(各ベースステーションにおいて,テレビアンテナを経て流入するアナログ放送波は,当該利用者の指令によりデジタルデータ化され,当該放送に係るデジタルデータが,各ベースステーションから当該利用者が設置している専用モニター又はパソコンに対してのみ送信される)ものである。すなわち,ベースステーションが行い得る送信は,当該ベースステーションから特定単一の専用モニター又はパソコンに対するもののみであり,ベースステーションはいわば「1対1」の送信を行う機能しか有していないものである。そうすると,個々のベースステーションが,不特定又は特定多数の者によって直接受信され得る無線通信又は有線電気通信の送信を行う機能を有する装置であるということはできないから,これをもって自動公衆送信装置に当たるということはできない。」(25-26頁)
「本件サービスに係るデジタル放送データの送信の起点となるとともに,その送信の単一の宛先を指定し,かつ送信データを生成する機器であるベースステーションは,本件システム全体の中において,複数のベースステーション相互間に何ら有機的な関連性や結合関係はなく(例えば,利用者との契約の終了等により,あるベースステーションが欠落したとしても,他のベースステーションには何らの影響も及ぼさない。),かかる意味で,個々のベースステーションからの送信は独立して行われるものであるから,本来別個の機器である複数のベースステーションを一体として一つの「装置」と考える契機は全くないというべきである。」(28頁、「被控訴人のシステム全体が一つの「装置」にあたる」という控訴人の主張に応答したもの)

と侵害を否定しており、この点に関しては原審判決と大きな違いはないと言ってよい。


だが、公衆送信権侵害については、

「「送信」を定義する規定は存在しないが,通常の語義に照らし,信号によって情報を送ることをいうものと考えられ,その信号には,アナログ信号のみならず,デジタル信号も含まれ,また,必ずしも信号発信の起点となる場合だけでなく,いったん受信した信号をさらに他の受信者に伝達する行為も,著作権法における「送信」に含まれるものと解するのが相当である。他方,「受信」についても著作権法に定義規定は存在しないが,「受信」は「送信」に対応する概念であるとして,上記のような「送信」に対応して使用されていることからすると,著作権法上,「受信」とは「送信された信号を受けること」をいうものと解すべきである。」(32-33頁)

という定義を確認したうえで、

「上記アにおいて述べた「送信」及び「受信」の一般的意義を前提とすれば,本件番組に係るアナログ放送波をテレビアンテナから有線電気通信回線を介して各ベースステーションにまで送ることは,著作権法2条1項7号の2の「有線電気通信の送信」に該当し,各ベースステーションが上記アナログ放送波の流入を受けること自体は同号の「受信」に該当するというべきである。そして,上記「有線電気通信の送信」の主体が被控訴人であることは明らかである。」(40-41頁)

と、少なくともテレビアンテナ−ベースステーション間の行為については、「送信」行為にあたるとして、原審判決の1)、2)を事実上否定する判断を下した。


結論としては、「公衆によって直接受信されること」(著作権法2条1項7号の2)の解釈について、

「上記のとおり,公衆(不特定又は多数の者)に向けられた送信を受信した公衆の各構成員が,著作物を視聴等することによりその内容を覚知することができる状態になることをいうものと解すべきものである。」(42頁)

とした上で、

ベースステーションは,テレビチューナーを内蔵しており,対応する専用モニター又はパソコン等からの指令に応じて,テレビアンテナから入力されたアナログ放送波をデジタルデータ化して出力し,インターネット回線を通じて,当該専用モニター又はパソコン等にデジタル放送データを自動的に送信するものであり,各利用者は,専用モニター又はパソコン等から接続の指令をベースステーションに送り,この指令を受けてベースステーションが行ったデジタル放送データの送信を専用モニター又はパソコン等において受信することによって,はじめて視聴等により本件番組の内容を覚知し得る状態となるのである。すなわち,被控訴人がテレビアンテナから各ベースステーションに本件番組に係るアナログ放送波を送信し,各利用者がそれぞれのベースステーションにおいてこれを受信するだけでは,各利用者(公衆の各構成員)が本件番組を視聴等することによりその内容を覚知することができる状態にはならないのである。そうすると,被控訴人の上記送信行為が「公衆によって直接受信されること」を目的とするものであるということはできず,したがって,これをもって公衆送信(有線放送)ということはできない」(41-42頁)

と原審判決3)の判断を維持することによって、侵害否定の結論を導いたのであるが、著作権法の立法趣旨やWIPO条約等と絡めて「直接受信」の意義を論じた控訴人側の主張もそれなりに分厚いものがあっただけに、これまでの決定や地裁判決に垣間見えた“ワンサイド・ゲーム”の様相はここでは姿を消しているように見える。


また、事実認定が絡む侵害主体性の問題はともかく、「直接受信」に関する法解釈については、最高裁の判断を仰ぐ余地も出てきたのではなかろうか*4


敗れはしたものの、著作権法上の「送信」行為と認められる範囲を広げた上に、法解釈上の争点も鮮明にした、という意味では、控訴人側の戦術も捨てたものではないように思う。

ダブル・スタンダード

さて、今回の判決に限らず、本事件に関して目につくのが、裁判所の徹底した“条文の文言重視”の姿勢である。


法律に基づいて裁判をする以上当たり前じゃないか、と言えばそれまでなのだが、「複製権侵害」をめぐって争われる事案では、必ずしも当たり前ではないのが実情だけに、このギャップをどう解せば良いのだろう、という率直な疑問も湧いてくる。


たとえば、浜松市デジタル家電会社(株式会社日本デジタル家電、被告)が仮処分から一貫して敗れ続けている「ロクラク事件」の地裁判決(東京地判平成20年5月28日、H19(ワ)第17279号)*5では、被告側が、「利用者によるテレビ番組複製行為に関与していない」と主張しているにもかかわらず、いわゆる“「カラオケ法理」的法理”を用い、

「親機ロクラクは,本件サービスを成り立たせる重要な意味を有する複製を行う機能を有する機器であるところ,
被告は,日本国外の利用者に日本のテレビ番組の複製物を取得させるという本件サービスの目的に基づき,当初,親機ロクラクの設置場所を提供して管理支配することで,日本国外の利用者が格段に利用しやすい仕組みを構築し,いまだ,大多数の利用者の利用に係る親機ロクラクを,東京都内や静岡県内において管理支配しているものということができる。この場合,上記の,本件サービスにおいて親機ロクラクの果たす役割からすれば,被告は,別紙サービス目録記載の内容のサービス,すなわち,本件対象サービスを提供しているものということができ,本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製行為を管理支配していると認めることができるとともに,それによる利益を得ているものと認められる。」
「以上から,被告は,本件対象サービスを提供し,本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製行為を行っているというべきであり,原告NHK及び東京局各社の本件番組についての複製権(著作権法21条)及び原告らの本件放送に係る音又は影像についての著作隣接権としての複製権(著作権法98条)を侵害するものといえる。」
被告は,本件サービスが,あくまでも利用者個人がその私的使用目的で賃借したロクラク2を利用する行為であって,その利用に関与するものではなく,利用者が賃貸機器を利用してテレビ番組を複製する行為の主体は,利用者本人であり,被告ではあり得ない旨主張する。しかしながら,被告は,上記判示のとおり,本件対象サービスにおいて,自らが本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製行為を行っているのであり,このことと,本件サービスの利用者によるテレビ番組の録画が,私的使用目的で行われるか否か,あるいは,利用者の指示に基づいて複製されるテレビ番組が選択されるか否かとは,直接関連するものではないから,被告の上記主張は,失当といわなければならない。」
(以上、77-78頁)

と侵害を肯定している。


もちろん、装置が利用者が購入した汎用製品か、それとも被告が貸与している専用品か、といった違いはある(そしてその違いは大きい)のだが*6、親機と子機が「1対1」対応で、被告が行っているのが設置場所の提供・管理や接続サービスである、という点では共通しているのであって、利用者から見てパッと見でそんなに大きな違いがあるのか、と言われれば微妙なところだろう。


それでいて、一方では、物理的な「複製」行為の有無にかかわらず、被告サービスの目的等を捉えて侵害主体性を肯定してしまい、一方では、被告の行為を「公衆送信」の定義に慎重にあてはめて「非侵害」という結論を下す*7


見ようによっては、録画するかしないか、で適法か違法かのボーダーを分けているようにも思えなくはないのであるが、そういった線引きをすることが良いことなのかどうか、何とも言えないところである。


純粋に放送番組を視聴することと、それを録画して見たい時間・場所で見ることとの間にそんなに距離がある時代ではもうないのだから、少なくとも、公衆送信権侵害にならないようなサービススキームであれば、利用者による録画行為まで認めるのが筋のような気もするのであるが・・・


ここは、よりチャレンジングな事業者の登場を待つことにしたい。

*1:第4部・石原直樹裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081216170214.pdf

*2:第47部・阿部正幸裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080623111341.pdf

*3:さすがに、仮処分も含めて何度も同じ製品を対象に争われた事件だけに、この段階で事実認定が大きく揺らぐ、ということは考えにくいだろう。

*4:6度目の敗北を味わうリスクを冒してまで、控訴人側が上告受理申立てを行うのかどうかは、筆者の知るところではないが。

*5:第29部・清水節裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080529122138.pdf

*6:ついでに言えば、ロクラク事件における被告の主張立証活動に対しては、地裁民事第29部が相当厳しい指摘を仮処分段階から行っており、裁判所の心証は相当悪化しているように見受けられる。

*7:「まねきTV」事件での控訴人の主張には「サービスの性質」を捉えて被告サービスを違法とする主張も含まれているのだが、それが顧みられることはなかった。

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