壮大なアドバルーン

たぶん記事のネタが枯れる時期にはちょうど良いのだろう。


年初の日経新聞の1面には、知財立法絡みの記事が掲載されることが多い(ような気がする)。


で、今年は何が出るのだろう・・・とワクワクしながら待っていたら、出た。

「特許 ソフトも保護対象」
「大幅な法改正で明確に」

という見出しの「特許法見直し検討」という記事が。



残念なことに、記事の大半を占めている、

「モノ」が対象だった特許の保護対象にソフトウェアなどの無形資産を追加。」(保護の対象となる「発明」の定義の見直し)
日本経済新聞2008年1月5日付朝刊・第1面)

という話は、そんなに興味をそそられる中身ではない(少なくとも自分にとっては)。


「保護対象として検討する無形資産の代表例」として挙げられているのは「ソフトウェア」なのだが、これまでの法改正、審査基準見直しによって、(若干の制約はあるものの)ソフトウェア関連発明は実務上特許として認められるようになってきているし、それ以上の保護を図る必要性が果たしてあるのか・・・?と問われれば疑問の残るところだろうと思う。


もちろん、「発明の定義」というテーマ自体は、特許法の原理的問題として長きにわたり学会の関心事となっていたものだから、法改正による決着、となれば、それなりのインパクトはあるのだろうが、多くのユーザーにとっては無縁の話となる可能性が高い。


それよりも重要なのは、2番目に挙げられている

「差し止め請求権」の放棄など技術革新の促進に向けた制度づくり」

の方だろう。


記事には、

「特許の開放の際にいったん請求権を放棄すると、その後は差し止めをできなくする方向だ。」

ということしか書かれていないので、どこまでの範囲を想定しているのか俄かには理解し難いのだが、パテントトロール対策にまで踏み込む形で「差止請求権」の在り方を見直す、という話になってくると、特許実務に与える影響は相当大きいのではないかと思われる。


その先に挙げられている項目も凄い。

◆「職務発明規定」の見直し
◆審査基準の法制化に向けた検討
◆迅速で効率的な紛争解決方法の検討
◆審査の迅速化と出願者のニーズへの対応
◆分かりやすい条文づくり

下の二つには“お約束”的な面もあるのだろうが、残りの3つは、単独でもそれなりに審議期間を取らないと解決案が見出せないような大テーマである。


職務発明規定については、

「現行法では企業が特許権を譲り受ける代わりに、発明者に「相当の対価」を支払わなければならない。職務発明を巡る技術者と企業との相次ぐ訴訟を念頭に置き、特許権保有者を発明者、企業のいずれにするか、技術者と企業の契約のなかで定めるべきかなどを慎重に探る」

と、4年前に修正したばかりの特許法35条ルールを根底から覆すようなコメントが掲載されており、これを本気で議論し始めたら一体どんなことになるのだろう・・・?と、今から怖いもの見たさでワクワクするような前フリだ(笑)。


上に挙げられた項目の中には、正直どこまでニーズがあるのか怪しい(実務もロクに知らない門外漢が適当に言ってるだけなんじゃないの?と思いたくなる)項目も混ざっているから、全てについて現実に見直しがかかるとは考え難いのだが、それでも、

「1月下旬から産業界、学界、法曹界弁理士でつくる長官の私的研究会で一年間かけて検討。2010年には産業構造審議会経済産業省の諮問機関)で審議したうえ、11年の通常国会特許法改正案か新法を提出、12年の施行を目指す。」

というスケジュールが出てきているところを見ると、これから1〜2年の間に一通りの議論はこなしていくつもりなのだろう。


鬼が出るか?蛇が出るか?


行く先は前途多難と見るが*1、何年か経った後に出来上がってくる(かもしれない)特許法体系のカタチがどのようなものになるのか、生暖かく見守っていきたいと思う。

*1:そもそも今の政治状況下で落ち着いた議論が果たしてできるのかどうか、成案が出来てもお蔵入りになるのではないか、といった懸念を拭い去るのは難しいだろう。

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