「異端児」のそれぞれ

朝、新聞を開いてみたら、いきなり、

「歪んだ日本の弁護士業界の内幕をすべて白日の下に曝す!」

という、おどろおどろしいキャッチコピーとともに、「法律事務所ホームロイヤーズ所長弁護士・西田研志」氏の著作(3冊同時刊行)の広告が掲載されていた。


一応お約束として目を通しておこうかと(笑)本屋に行ったのであるが・・・


サルでもできる弁護士業

サルでもできる弁護士業


弁護士業界の革命児、起つ

弁護士業界の革命児、起つ


眠れる20兆円マーケット ~法務ビジネスという名の埋蔵金~

眠れる20兆円マーケット ~法務ビジネスという名の埋蔵金~



まぁ、立ち読みで十分かなぁ、というのが率直な感想である。


この種の書籍にありがちな「一代記」的な部分は(真実であろうとなかろうと)読み物としてそれなりに面白いのであるが、肝心の「自分がこの業界をどう変えていこうとしているのか」という部分が、具体論の裏付けに乏しく、抽象論と単なる事務所の宣伝にとどまっているのが否めないからだ。


確かに、これまでの“職人的手作業”を“効率化・システム化”していけば、大量かつ安価なリーガルサービスを提供できるかもしれないが、その結果、供給されるサービスの質が下がっては元も子もないわけで*1、「質との両立」まで含めてスキームを考えないと、提言としての意味は乏しくなってしまう*2


あと、「内幕暴露」的なくだりについても、ここ数年の業界の環境の変化が十分に反映されていないきらいがあって、ところどころは傾聴に値するところはあるにしても、全体としてみると、主張自体の信頼性が大きく減殺されてしまっているのが、何とも残念だ。


で、業界の「異端児」というフレーズを聞いて思い出したのが、矢作芳人調教師が昨年執筆された、


開成調教師 安馬を激走に導く厩舎マネジメント (競馬王新書16)

開成調教師 安馬を激走に導く厩舎マネジメント (競馬王新書16)


という一冊である。


業界に入るまでに、他の同業者とは異なる回り道をしていることや、資格を取るまでに長い時間をかけている、といった点もさることながら、多彩な経験をもとに、

「その中で、競馬の最前線たる厩舎社会だけが取り残され、変化が遅れている。一般社会以上に優勝劣敗が厳しく適用されるのが当然なのに、旧態依然たる護送船団方式の考え方が今でも色濃く残っているのだ。サークル内の人間は様々な規制により保護され牙を抜かれてしまっている。僕は競争の社会に身を置く者として、それが納得できない。」(はじめに・12頁)

と、業界の現状に不満を持ち改革を呼びかけている・・・といった点において、上記西田弁護士との近似性を見出すことができるだろう。


もっとも、調教師ご本人の戦略や経営ポリシー、そして改善に向けての具体的な提言といったものが、分かりやすく自分の言葉で書かれている、という点において、この本は、西田弁護士の三冊と大きく異なる*3



同じ業界内の保守的な人が読めば、「何だ、この野郎」と思うような中身だとしても、そこに一本筋の通った考え方が示されていれば、業界の内外で共感する人々は少なからず出てくるはずで、「異端児」が「異端児」として業界の中で生き続けていくためには、そのような努力が欠かせない。


自分の見立てでは、そのような取り組みに成功しているのが矢作調教師、かたや西田弁護士のほうは・・・というところなのだが、果たして他の読者の方々はどのように感じられるだろうか?


「異端児予備軍」たる筆者にとっても(苦笑)、この対照的な姿から学ぶべきところは多いのであるが・・・。

*1:著者の方の考えとは異なるかもしれないが、分業化、マニュアル化といったテクニックだけでクオリティを維持するのが困難なことは、他の士業界で既に証明されてしまっている(苦笑)ので・・・。

*2:クライアントが大企業であれば、ローコストと引き換えに質の落ちるサービスを選択したとしても、“自己責任”のひとことで片付ければよいが、西田弁護士がターゲットとしている顧客層に対して同じ理屈が通用するとは思えない。

*3:詳しくはまた機会があれば書くことにしたいが、競馬好きにとって有用な書、というだけでなく、いろんな分野に共通して使えるメソッドが随所に盛り込まれている良書だと思う(特に、中小規模の事務所なりチームなりを率いていかなければならない立場の人にはお勧めだ)。

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