先日取り上げた「営業秘密」に関する不正競争防止法改正の動き*1の続報として、以下のような動きが伝えられている。
「経済産業省が企業の技術情報保護を目的に検討している刑事手続き上の特例措置が明らかになった。技術情報が公にならないよう裁判官が法廷で内容に言及しない秘匿措置や、公判廷外で証人を尋問する制度の導入などが柱。」
「経産省は法務省との間で調整を進めて、特例措置を盛り込んだ改正不正競争防止法案を今通常国会に提出する方針。」(日本経済新聞2009年1月23日付朝刊・第5面)
やろうとしていることは、
(1)裁判官らが法廷で技術情報の内容に言及しないようにする秘匿措置
(2)公判廷外で証人を尋問する期日外証人尋問
(3)公開停止
の3つの措置で、これは先日のペーパー*2の中でも言及されている。
「営業秘密侵害罪」だけを特別扱いするようなやり方に裁判所サイドが安易に賛同するとも思えなかったから、もう少し時間がかかるかと思ったのだが、他の改正箇所と併せて次の国会に間に合わせるとは、さすが経産省、というべきだろうか(苦笑)。
実際のところ、営業秘密侵害罪の活用が進まないのは、不正使用開示された情報を「特定」したり、秘密管理性要件を充足するのがそもそも困難、という事情があるからであって*3、よく言われる
「技術情報が法廷で公になるのを恐れ、告訴に二の足を踏む」
というエクスキューズは、「なぜ厳正に対処しないのか?」とボスに聞かれたときの中間管理職の“言い訳”に過ぎないように思う*4。
「実務のニーズ」を捉えて動く立法担当者の“熱心さ”は評価せざるを得ないのだが、何が本当の「ニーズ」なのかを見極めないと、結局は立法に費やす労力の無駄になってしまう。
ましてやこれは、裁判公開という大原則の「例外」を設ける、という重大な法改正なのだから・・・
いろいろと考えさせられることは多い。
(追記)
かなり端折って書いたせいで、読者の方に誤解を与えてしまったかもしれないが、ここで問題になっているのは、刑事訴訟の、かつ「公開が原則となっている法廷」で傍聴する「被告人(弁護人)以外の利害関係者」(一応メディアも含まれるのかもしれない)への対策である。
民事訴訟手続であれば、口頭弁論で形式的な訴状、準備書面の「陳述」を行うだけで、実質的な議論は(当事者以外には公開されない)弁論準備手続で行われることになるから問題は生じないのだが(訴訟記録の閲覧制限もできる)、刑事訴訟手続の場合、このようなプラクティスがないために、上記のような対策が必要になるのだろうと理解している。
*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20090113/1231957982
*2:http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1030&btnDownload=yes&hdnSeqno=0000047225
*3:民事事件ですらハードルが高いのに・・・。
*4:実際、秘密保護策の導入が進められた民事の方でも、飛躍的に訴訟提起件数が増えた、という話は聞かない。