東京高裁が示した「常識」

関係者を“慄然とさせた”(苦笑)地裁判決から1年半。
ようやくちょっとはまともな判決が出た。

ニッポン放送株のインサイダー取引事件で、証券取引法違反罪に問われた元村上ファンド代表、村上世彰被告(49)の控訴審判決が3日、東京高裁であった。門野博裁判長は懲役2年の実刑とした一審・東京地裁判決を破棄し、懲役2年、執行猶予3年の有罪とし、追徴金11億4900万円と罰金300万円は一審判決と同額とした。同被告は同日、上告した。」(日本経済新聞2009年2月4日付朝刊・第1面)

依然として争う姿勢を崩していない村上被告側にとっては、まだ納得のいかない中身かもしれないが、それでも、「重要事実」該当性について、

「実現可能性が全くない場合は除かれるが、可能性があれば足り、その高低は問題とはならない」

という非常識な基準を示した地裁判決とは異なり、

「ある程度の具体的な内容を持ち、実現を真摯(しんし)に意図していると判断されるものでなければならず、それ相応の実現可能性が必要」

とした上で、取引事実を細かく認定して判断を下した高裁判決には、まだ救いがあるといえるだろう*1


また、違法性の認識について、

「当初は情報を利用する意図はなく、違法性の認識も強くなかった」

としたくだりや、「村上ファンド」の性質を

「『ものいう株主』の評価は議論が熟しておらず、量刑事情として考慮するのは困難」

としているくだりも評価できる。



もちろん、「村上ファンド」=「悪」という立場にある識者から見れば、

元代表の姿勢を厳しく批判した一審判決の方が本質を突いていた。二審はインサイダー取引を細かく認定したが、逆に事件の構図は矮小(わいしょう)化されたのではないか。」(日本経済新聞2009年2月4日付・朝刊第3面、上村達男・早稲田大教授のコメント)

ということになるのだろうが、行政処分であればまだしも、これはレッキとした“刑事訴訟”なのだから、個々の取引の構成要件該当性を議論することなくして、ペナルティを課すことなどできないはずだ。


最高裁での判断がどのようなものになるかは分からないが、おそらく判決が出る頃には、あの不幸な“新参者に対する弾圧の時代”は相当遠い過去の出来事になっているはず。


冷静な頭で、冷静な結論が導かれることを、一実務者としては願うのみである。

*1:現時点ではまだ高裁判決の全文に接していないので、判旨も、新聞等で報道されているものを参照の上、引用している。

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