石原慎太郎知事が激怒している件について

東京都下水道局が「内規に違反している」との理由で制服のワッペンを3200万円かけて作り直した件で、石原慎太郎知事が立腹されている様子があちこちで伝えられている。


一例を挙げるなら、

「バカじゃねえか。役人の悪い意味での律儀さは世間では通じない。」
「(当初のデザインについて)私はこっちの方がよっぽどいいと思う」
日本経済新聞2009年4月11日付朝刊・第39面)

といった具合である。


もっとも、長年ブランド管理に携わっている筆者にしてみれば、今回の事例が「お役人の無駄遣い事例」として片付けられることには複雑な思いもある。


問題となったワッペンは、「東京都下水道局」という組織の名称をそのまま記したもの。普通の会社でいえば、まさに「コーポレートマーク」というべき、もっとも重要なロゴである。


そして、ここで気をつけなければいけないのは、一部の部課長や担当者が独断であらかじめ定められたロゴ使用ルールを逸脱するような行為を行うことは、ブランドの希釈化を招く行為として強く戒められなければならない、ということで、これはブランド管理者の行動準則として定着していることでもある。


“なし崩しで行われるCI”ほど厄介なものはないし、それは、独断で作成されたデザインがどんなに粋なものであるとしても同じこと*1


もし、同じようなことを、「広告代理店を介して外部のデザイナーに制作を依頼している自社広告用のロゴ」等に関して行おうものなら、D通の担当者が湯気を出して怒鳴り込んできたとしても全く不思議ではない。


その意味で、当初のロゴを制作した関係者を処分し、作り直しを命じた職員の毅然とした態度は、ブランド管理準則の“お手本”とでもされるべきもの、というべきなのであって、それが一慨に批判されてしまうのは、何とも気の毒であるように思う。



もちろん、3200万円という金額は大きい。しかもそれが“血税”を財源とするものであればなおさらだ。


それだけに、知事が立腹して、メディアがそれに追従するのも分からないではないのだが、「こっちの方がよっぽどいい」なんて本音を聞いてしまうと、日本最大の自治体の首長のブランド意識もその程度なのか・・・と思わずため息をついてしまうのも事実なわけで。



筆者は、自分の会社でこんな重大“事故”を発生させることはよもやあるまい、と信じているのだが、小さなところでは、「こっちのデザインの方がいいんじゃない?」という思いつきCIに苦労させられた上に、「作り直せ」という勇気もないままお茶を濁している実態もあるだけに、明日は我が身・・・、なのかもしれない、と思っている。

*1:真に今のデザインよりも新しいデザインの方がシンボルとしてふさわしい、と考えるのであれば、それを正式なロゴとするためのしかるべき手続きを踏むべきだし、ひとたび手続きがなされれば、一斉にそれに切り替えるのでなければ意味がない。

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