拳を振り上げるのは自由だが・・・

日経の月曜法務面に、「ブルーレイ」の録画補償金をめぐる問題が取り上げられていた。

「録画機器などの販売価格に著作権料(私的録音録画補償金)を課金する制度を巡って、権利者側とメーカーの対立が続いている。ブルーレイ・ディスク(BD)とその録画機器への課金が予定より1ヶ月以上遅れて5月22日から始まる見込みだが、両者の意見の違いは大きく、事実上見切り発車となった。補償金問題を巡るわだかまりは根強く、今後、権利者側が訴訟を起こす可能性も出ている。」(日本経済新聞2009年5月11日付朝刊・第16面)

ダビング10」で録画回数に制限がかかっている機器にさらに「補償金」を課せば、メーカーの反発を招くのは当然のことだと思うし、それゆえ対立が一向に解消されない、という状況が長期化することも当たり前の話(メーカーの背後には当然「消費者」としてのエンドユーザーがいる)。


文化庁は、施行通知に

(1)アナログチューナーを搭載していない録画機が出荷される場合、およびアナログ放送が終了する11年以降、関係者の意見の相違が顕在化し、補償金の回収についてメーカーの協力が得られなくなるおそれがある
(2)意見の相違が顕在化した場合には、政令の見直しを含む必要な措置を講じる

といった文言を盛り込むことで事態を打開しようとしているようであり、それを評価するコメントも記事の中では紹介されているのだが、既に“明らかに意見の相違が顕在化している”状況で、上記のような文言を盛り込んだとしても、その場しのぎにしかならないだろう。


今後どの辺で“落ちる”のか(それとも文化庁が調整を放棄するのか)、については、議論の行方を見守るほかないのであるが、今回のコラムで気になった点が一つある。


それは、上記リード文や、

「権利者団体も危機感を強めており、『メーカー二社については、話し合いで解決しなければ提訴も検討する』(実演家著作隣接権センターの椎名和夫運営委員)と表明している」
ダビング10への課金をめぐる主張の相違は基本的に解消されておらず、権利者によるメーカー提訴の可能性がなくなったわけではない」

といったくだりに現れているように、このコラムで、「権利者団体」が補償金を回収しない「メーカー(製造業者)」に対して訴訟を提起できる、ということが当然の前提のように書かれていることだ。



本ブログの読者の方にはあえて説明するまでもないかもしれないが、著作権法の「私的録画補償金」に関する定めは、以下のようになっている。

(私的使用のための複製)
第30条
2 私的使用を目的として、デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器(放送の業務のための特別の性能その他の私的使用に通常供されない特別の性能を有するもの及び録音機能付きの電話機その他の本来の機能に附属する機能として録音又は録画の機能を有するものを除く。)であつて政令で定めるものにより、当該機器によるデジタル方式の録音又は録画の用に供される記録媒体であつて政令で定めるものに録音又は録画を行う者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。

私的録音録画補償金の支払の特例)
第104条の4 第30条第2項の政令で定める機器(以下この章において「特定機器」という。)又は記録媒体(以下この章において「特定記録媒体」という。)を購入する者(当該特定機器又は特定記録媒体が小売に供された後最初に購入するものに限る。)は、その購入に当たり、指定管理団体から、当該特定機器又は特定記録媒体を用いて行う私的録音又は私的録画に係る私的録音録画補償金の一括の支払として、第104条の6第1項の規定により当該特定機器又は特定記録媒体について定められた額の私的録音録画補償金の支払の請求があつた場合には、当該私的録音録画補償金を支払わなければならない。

(製造業者等の協力義務)
第104条の5 前条第1項の規定により指定管理団体が私的録音録画補償金の支払を請求する場合には、特定機器又は特定記録媒体の製造又は輸入を業とする者(次条第3項において「製造業者等」という。)は、当該私的録音録画補償金の支払の請求及びその受領に関し協力しなければならない。


要するに、補償金の支払義務を負っているのは、「録音又は録画を行う者」(30条2項)であり、「特定機器等を購入するもの」(104条の4)であって、「製造業者等」は「指定管理団体」に対する協力義務を負っているに過ぎない(104条の5)、というのが著作権法の基本的な建付けになっている。


そして、法104条の4が30条2項の特則であることから、指定管理団体でなく著作権者(及び法102条1項で30条2項が準用される著作隣接権者)が補償金の請求主体として原告になることは一応理解できるとしても、上記のような法の建付けに照らせば、その請求の相手方は個々のエンドユーザーであって「製造業者等」では決してないはずである。


また、法104条の5は、あくまでの「指定管理団体が私的録音録画補償金の支払を請求する場合」の「協力義務」について定めた条項にすぎないから、仮に、製造業者がこの義務に違反したことをもって訴えを提起するにしても(不法行為に基づく損害賠償請求?)、著作権者・著作隣接権者が直接の請求主体になりうるのか、あるいは、メーカーが協力しないことによって生じる権利者側の「損害」なるものを観念しうるのか*1、といった問題が出てくるように思えてならない。



上記のように、権利者側はだいぶ勇ましい声を上げているようであるし、記事もそれを(メーカーにとっての)“現実のリスク”と認識しているようであるが、拳を振り上げるに値するだけの合理的な“勝算”が権利者側に果たしてあるのだろうか。


一度振り上げた拳を下ろすのは結構大変な作業なんだけどなぁ・・・、と老婆心ながら気になった次第である。


 

*1:メーカーが協力しなかったとしても、指定管理団体や権利者がユーザーに対して補償金を直接請求することができなくなるわけではないから、少なくとも回収できなかった補償金全額に相当する額を「損害」として主張することは不可能だろう。