著作権法改正案の参院での審議に思うこと。

成立してからだいぶ日が経ったが、最近、「著作権法の一部を改正する法律案」の参議院文教科学委員会での審議の会議録に接する機会があったので、ちょっとコメントしてみたい。


参議院委員会での質問者は、民主党議員の友近聡朗那谷屋正義の2氏。


政治的きな臭さの増した6月中の審議だったこともあって、政権交代を意識したパフォーマンス的発言が多いのは大目に見ることにしよう。


だが、質問の中身はどうか。


友近議員の方は、グーグルブックの検索への対応と、国立国会図書館電子図書館構想に関する話題が中心で、それなりに旬の話題を押さえてはいるが、重心はどちらかといえば後者によっているし、那谷屋議員の方は、冒頭で無関係な教育関係の話題を散々振ったあげく、質問の内容は障がい者向け著作物の問題と啓発教育に関する問題に終始しており、ダウンロード違法化問題を最後にちょっと付け足した程度という状況である。


もちろん、これらの問題も今回の改正の中では重要な項目の一つであるのは間違いないのであって、これらの問題を軽んじるつもりは毛頭ない。


だが、「国民が知りたいこと」*1や「実務者が関心を持っていること」*2といった基準で考えるなら、どうしても隔靴掻痒感の残る質問内容といえるのではなかろうか。


絶対的な審議時間が少ない故の制約があることは否めないし、「文教科学委員会」という委員会の性質上、委員を務める議員やその取り巻きの関心が特定分野に偏ってしまうのはやむを得ないことなのかもしれない*3


だが、一昔前の国会会議録の中に、立法者意思解釈のヒントになりうるような有意義なやり取りが多く含まれていたことを考えると、いかにも“薄い議論に終始している”という印象は否めないのである。



こればっかりは政権が変わったところで大きく変わるとは思えないし*4、法の内容に踏み込んだ深い議論は国会ではなく審議会の段階ですませておけ、ということなのかもしれないが、もう少し何とかならんのか、という思いは当然残る。


なお、参議院での附帯決議は下記のような内容になっている*5

著作権法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)
政府及び関係者は、本法の施行に当たり、次の事項について特段の配慮をすべきである。
一、違法配信と知りながら録音又は録画することを私的使用目的でも権利侵害とする第三十条第一項第三号の運用に当たっては、違法配信と知らずに録音又は録画した著作物の利用者に不利益が生じないよう留意するとともに、本改正によるインターネット利用への影響について、状況把握に努めること。
また、本改正に便乗した不正な料金請求等による被害を防止するため、改正内容の趣旨の周知徹底に努めるとともに、レコード会社等との契約により配信される場合に表示される「識別マーク」の普及を促進すること。
二、インターネット配信等による音楽・映像については、文化の発展に資するよう、今後見込まれる違法配信からの私的録音録画の減少の状況を勘案しつつ、適正な価格形成が促進されるよう努めること。
三、障害者の情報アクセスを保障し、情報格差を是正する観点から、本法の運用及び政令の制定に当たっては、障害の種類にかかわらず、すべての障害者がそれぞれの障害に応じた方式の著作物を容易に入手できるものとなるよう、十分留意すること。
四、教科用拡大図書や副教材の拡大写本を始め、点字図書、録音図書等の作成を行うボランティアがこれまで果たしてきた役割にかんがみ、今後もボランティア活動が支障なく一層促進されるよう、その環境整備に努めること。
五、著作権者不明等の場合の裁定制度及び著作権等の登録制度については、著作物等の適切な保護と円滑な流通を促進する観点から、手続の簡素化等制度の改善について検討すること。
六、近年のデジタル化・ネットワーク化の進展に伴う著作物等の利用形態の多様化及び著作権制度に係る動向等にかんがみ、著作物等の利用の一層の円滑化に向けて、著作権法の適切な見直しを進めること。
  特に、著作権制度の在り方をめぐり意見の相違が大きい重要課題については、国際的動向や関係団体・利用者等の意見を十分考慮するとともに、技術革新の見通しと著作物等の利用実態を踏まえた議論を進めること。
七、国立国会図書館において電子化された資料については、情報提供施設として図書館が果たす役割の重要性にかんがみ、読書に困難のある視覚障害者等への情報提供を含め、その有効な活用を図ること。
八、文化の発展に寄与する著作権制度の重要性にかんがみ、学校等における著作権教育の充実や国民に対する普及啓発活動に努めること。
九、教科書、学校教育用副教材のデジタル化など教育目的での著作物利用に関しては、その著作権及び著作隣接権の許諾の円滑化に努めること。


参議院での“議論”を受けて追加されたと思われる2項目(第3項、第9項)以外は衆議院での附帯決議とほぼ同じ内容。


こちらの方はそれなりに良くできた中身だと思えるだけに、“国会の総意”(笑)として関係当局にはぜひとも検討していただきたいものだと思うのであるが・・・。


今は時を待つほかないのかもしれない。

*1:これは圧倒的に「ダウンロード違法化問題」だろう。

*2:衆議院からの審議を通じてほとんど言及されなかった個別の権利制限規定に関する問題や、そもそもの「権利制限規定のあり方」に関する言及がなくて残念がっているのは筆者だけではあるまい。

*3:文化庁が主管だからやむを得ないこととはいえ、近年の著作権法の目指している方向性を重視するのであれば、個人的には経済産業関係の委員会で審議する方が、もう少し中身のある議論になるように思えてならない。

*4:自民党が野党に回ることでかえって議論が活性化する可能性もないとはいえないが・・・。

*5:衆議院のそれと比較する場合には、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20090522/1243182859を参照

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