営業秘密・新管理指針策定へ

改正不正競争防止法が成立した以上、当然出てくるとは思っていたが、経産省はやはり来年の施行に合わせて管理指針を策定するようである。

経済産業省は企業の内部情報の管理指針を作成する。来年に施行される改正不正競争防止法は利益を得る目的などで営業上の秘密を外部に持ち出せば、それだけで刑事罰の対象となるよう情報管理の強化を盛った。産業界の管理負担も重くなることから、経産省は具体的な目安を示し、企業に過剰な負担を強いたり、従業員が萎縮したりしないようにする。」(日本経済新聞2009年8月4日付朝刊・第4面)

この改正法は、以前にも紹介したように*1、営業秘密侵害罪の刑事処罰の範囲を大幅に広げるもので、随所で懸念する声も上がっているところだけに、経産省としては早めに指針を出して、批判を打ち消しておきたいところなのだろう。


もっとも、この手の指針というのは、概して役に立ちそうで役に立たない代物になってしまうことが多い。

「そんなことはいちいち書いてくれなくても分かってる。それより一番気になっている○○のことがどこにも書いてない or 記述が曖昧過ぎて実務の用に堪えない」

といった経験を、これまで何度したことか。


策定するのが行政官庁である以上、「自分たちが立法時にイメージしていた法の適用範囲(典型的事例)」を示すことはできても、微妙な事例で新条文の解釈が争いになった場合や、当初想定していなかった場面で法の適用が争われた時に、裁判所がどのように解釈するか、というところまで先取りするのが難しい、という事情があるのは理解できる。


下手に独自の解釈論を「指針」に据えて、裁判所で結論がひっくり返った時にどんなハレーションが起きるか、ということを考えれば、優秀な官僚ほど大事なところはぼかすであろう、ということも容易に想像が付くところだ。


それゆえ、後は、企業内の実務担当者が頭を捻って、より実務向けの指針を社内向け、あるいは業界横断的に考えていかねばならないことになるわけだし、そこに企業法務部門の存在意義があるわけなのだが・・・



もし、指針の内容が、記事にあるような、

不正競争防止法に抵触するケースと、抵触しないケースとの違いなども解説する。プロジェクト終了後に営業秘密を自分のパソコンから消去し忘れた場合でも、うっかり忘れたケースは処罰対象とならないが、企業に「消去をした」と虚偽の回答をしたケースは処罰対象となるなど、細かな違いを説明する」(同上)

などというレベルの解説にとどまるようであれば、今年の冬、多くの会社で担当者の悲鳴と嘆きの声を聞くことになるだろう、と予言しておくことにしたい*2

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20090113/1231957982

*2:問題はどういう時に「うっかり忘れた」という弁解が認められるかであり、「消去したと思ってそのように報告したが実際には消去されていなかった場合」にどういう対処をすべきか、ということなのである。構成要件の不明確さはあちこちで指摘されているところだけに、経産省だけでクローズされるのではなく、検察庁警察庁あたりも交えて、“過剰反応”にならないような対策を講じておいてほしいものなのであるが・・・。まぁ、期待はすまい。

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